そうすると何ができるようになるかというと、世界のトップレース、F1でもナスカーでもスーパーGTでもいいんですけど、その参戦車両にこのシステムを供給して5Gの通信でつなぐと、リアルタイムで自分のプレイステーションやパソコンにデータを中継できるようになる。どんなお金持ちでもF1やナスカーに実際には参戦できませんが、バーチャル上では同時刻に走っているレースに参戦することができるようになるんです。

それはすごいですね。世界のトップカテゴリーのレースを観戦するだけでなく、参戦することができるようになると。

多田:もう、そんな夢みたいな話が実現できるレベルまで技術開発が進んできています。よく自動運転やAIというとクルマファンからは「そんな時代になったらつまんない、スポーツカーがなくなるんじゃないか」と言われるんですけど、それは違う。そういう新しいテクノロジーをもっとクルマを楽しむためのものとして使えば、夢のような世界が目の前に現れるはずなんです。それをこのスープラで実現したいんです。いくら走ってもCO2も出ないし(笑)。命がけで走っているプロレースに、安全に参戦することができる。

たしかに環境に優しく安全ですね(笑)。それでは、バーチャルからリアルレースへの導線みたいなものは考えているのでしょうか

多田:当然そういうつながりが欲しいですね。例えば全国のGRガレージをオンラインでつないでスープラのワンメイクレースの予選会をやって、上位者でリアルレースのためのチームを作るとか、チャンピオンがスーパーGTのマシンに乗れるチャンスがあるとか、アイデアはたくさんあります。要は夢を提供することも我々の商売の1つですから、どのやり方がいいのか考えていきたい。本当に才能のある人がリアルなレースに参戦できるようになれば、これまでとは違うかたちでモータースポーツの世界にアプローチができると思うんです。

ヨーロッパの一般道を走り込んだ

ところで実車の開発拠点は日本ではなく、ドイツなのでしょうか?

多田:メインの実験場はフランスにあります。もとはミシュランのテストコースをBMWが買い取ったもので、そこを拠点にして開発を進めています。ただ特徴的なのは、最初の試験車ができたときから、いきなり一般道を走って煮詰めていくことです。定量データはテストコースでとって、もちろんサーキットも走りますけど、メインの開発はヨーロッパの一般道で、フランスをはじめイタリア、ドイツ、昨年はアメリカでも随分テストをやりました。今年から日本でも本格的にテストをはじめます。

やはり実車開発はリアルワールドがいいということでしょうか? 日本では規制が厳しく、公道でのテストは難しいという話もよく耳にします。

多田:テストコースでもいろんな道を再現してはいますけど、どんなに路面の種類を揃えたって一般道にかなうわけがありません。現実にはありとあらゆる条件があるわけです。欧州では一般道でのテストは日常的なことですから、ごくごくあたり前のことと捉えられていて、我々も欧州メーカーのクルマに肩を並べようと思うとそこは避けて通れない。でも、日本は法規制が厳しいため公道でのテストが難しい。