「基本に立ち返ることができる会社」が、BMWの強み

多田:だけど、そんなに大事な要件であるホイールベースを決めるときに、自分たちを振り返ってみると、リア席もいるな、ガソリンタンクをどこに置くんだとか、じゃあこんな寸法にしかできないなって、そうやって決めてきた。少なくともピュアスポーツを作ろうというときに、それは大間違いだと。とにかく純粋に、走りのための黄金比、ホイールベースとトレッドを先にきめて、そこからパッケージングしていこうと。だから2シーターで、ホイールベースは86よりも短いんです。(*86のホイールベースは2570mm、今回のコンセプトカーの公表値は2470mm)。それを先に決めて、重量配分的にバランスのいいシートの配置を決めて、とやるわけです。

要はスポーツカーの基本の“キ”をしっかりやると

多田:まさにそうです。そこに立ち返ればクルマの動きはまったく違うものになる。そして何よりも「基本に立ち返って考えられるような会社の仕組み」になっていることが大きな要素で、飛び道具があっていきなりBMWができるわけじゃないということなんです。

 ともすれば、とんでもない提案が出て来るんです。実はね、エンジンの搭載位置が動いたんです。クルマって徹底的に軽量化すると、後ろが軽くなるんです。FRは特にそうで、前を軽くする要素はあまりない。進めていくとちょっとバランスがフロント寄りだな、と、あるときはたと気づいたわけです。

 そしたら彼らは、「エンジンをもっと下げればいいじゃん」。ええ~って、そんなことできるわけがない。我々の常識ではありえない。生産現場の準備をしたあとで生産開始まで残された時間はこれだけしかないし、これをかえたら、あれもこれもやり直しだと。「でも、そうしたいんだろ、必要ならやればいい」と。

それで、やっちゃったわけですか……。


 スープラとは、直6エンジンを搭載したFRのスポーツカーであると定義づけ、そして理想的なホイールベース×トレッド比を優先し2シーターを選択。BMWとの協業の中でとまどいながらも、妥協のないスポーツカー開発がいまも続いているようだ。一方で、現在のスポーツカーとして、安全や環境への配慮は避けて通れない。後編では量産車開発について、また安全や未来への取組みなどについても話を聞いてみた。

ドットタイプのLEDヘッドライトは、WEC(世界耐久シリーズ)用のレースマシンTS050を彷彿とさせるもの
ドットタイプのLEDヘッドライトは、WEC(世界耐久シリーズ)用のレースマシンTS050を彷彿とさせるもの

編注:ちなみに、藤野さんがADを担当していた時代の「走りながら考える」では、多田さんにこんなお話を伺っています。

「86」に引き抜かれ、上司に「ここで腐らずにがんばれよ」と
第162回:トヨタ 86 【開発者インタビュー編 その1】

「86」を遅いスポーツカーにしたいって、そんな企画通るはずがないだろう
第163回:トヨタ 86 【開発者インタビュー編 その2】

やっと動き出した「86」開発、でも両社がエンジンで綱引きして…
第164回:トヨタ 86 【開発者インタビュー編 その3】

スポーツカー(86)は役員会議で作るべからず
第165回:トヨタ 86 【開発者インタビュー編 その4】