ジュネーブショーで世界初公開された「GR Supra Racing Concept」。このレース仕様の開発は欧州のモータースポーツ活動拠点であるトヨタモータースポーツ有限会社(Toyota Motorsport GmbH)が担当
ジュネーブショーで世界初公開された「GR Supra Racing Concept」。このレース仕様の開発は欧州のモータースポーツ活動拠点であるトヨタモータースポーツ有限会社(Toyota Motorsport GmbH)が担当

 3月6日に行われたジュネーブ国際モーターショーのプレスデイ初日、トヨタは新型スポーツカー「スープラ」のレース仕様である「GR Supra Racing Concept」を世界初公開した。市販車はBMWとの共同開発中で、来年の第1四半期の発売が予定されている。

 なぜレース仕様を先行公開したのか、BMWとの共同開発はいかなるものなのか? スープラのチーフエンジニア多田哲哉氏が、現地を訪れた報道陣に向け開発の経緯を明らかにした。

1978年に登場した初代(A40/A50型)。国内名称は「セリカXX(ダブルエックス)」
1978年に登場した初代(A40/A50型)。国内名称は「セリカXX(ダブルエックス)」
<b>多田 哲哉(ただ・てつや)</b>GazooRacing Company GR開発統括部チーフエンジニア・スープラ開発責任者 1987年トヨタ自動車入社。入社後、ABSの電気評価やスポーツABSなどの新システム開発を担当し、1993年にはドイツでWRCラリー用のシャシー制御システム開発等に従事。のちラウム、パッソ、bB、ラクティス、WISH、アイシスなどのチーフエンジニアを勤める。2007年、新たなスポーツモデルの企画統括に携わり、開発責任者として、スバルと共同で86をまとめあげ、のちに現職。
多田 哲哉(ただ・てつや)GazooRacing Company GR開発統括部チーフエンジニア・スープラ開発責任者 1987年トヨタ自動車入社。入社後、ABSの電気評価やスポーツABSなどの新システム開発を担当し、1993年にはドイツでWRCラリー用のシャシー制御システム開発等に従事。のちラウム、パッソ、bB、ラクティス、WISH、アイシスなどのチーフエンジニアを勤める。2007年、新たなスポーツモデルの企画統括に携わり、開発責任者として、スバルと共同で86をまとめあげ、のちに現職。

 「スープラ」は今から40年前、1978年に初代(A40/A50型)が誕生した、トヨタのスポーツモデルだ。この「スープラ」は実は北米仕様の名称で、第2世代(A60型)までは日本国内では「セリカXX(ダブルエックス)」として販売されていた、といったほうがクルマ好き世代には、ピンとくるかもしれない。

 1986年にデビューした第3世代(A70型)からグローバルで販売がはじまり、国内でも名称がスープラとなる。そして1993年に登場した第4世代(A80型)は、2002年をもって生産中止となった。これは当時の排ガス規制の影響によるものだが、時を同じくして日産GT-R(R34)、シルビア(S15)、マツダRX-7(FD3S)など、日本のスポーツカーの多くが2002年に生産を終えている。

 スープラの開発責任者である多田哲哉氏は、スバルとの協業でトヨタ86(スバルBRZ)を復活させた人物してよく知られている。まずスープラを担当することになった経緯について尋ねてみた。

「BMWと一緒にクルマが作れるか調べてこい」

多田さんがこのモデルの開発責任者にアサインされた当時から、10年以上も途絶えていた「スープラ」の名を復活させることは決まっていたのですか?

多田:最初からそういうふうに指示を受けたわけじゃないんです。開発がスタートしたのは実は86を出した直後のことで。86を2012年に発売して、その年の5月にヨーロッパのジャーナリスト向けの試乗会をスペインでやりました。

 その期間中に突然、内山田さん(内山田竹志・現トヨタ自動車会長)から電話があって、「おまえ、明日誰にも内緒でミュンヘンへ行け」と。BMWの本社にいくと◯◯さんという人が待っているから、そこでBMWと一緒にクルマが作れるか調べてこいと。

 えぇ~、と思いながら、向かったんですけど、国際試乗会のあいだに突然チーフエンジニアがいなくなって、しかもどこに行ったのか誰も知らないみたいな(笑)、あとから大騒動になったと聞きました。そのときにはまだ具体的な話があったわけじゃなくて、お互いのクルマ作りやその考え方について話をして、BMWの担当もいい人でしたし、これならできるかなと感じて日本にレポートしたことがきっかけです。いざ始まってみると、そんな甘い考えで返事をするんじゃなかったってことになるんですけど(笑)。

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