デジタルカメラの「目」であるイメージセンサーの進化が著しい。肉眼では認識できないスピードや、暗闇での撮影を可能にする。
リンゴに矢じりが当たると同時に細かな果汁と果肉が飛び散り、矢が突き刺さり貫通していく──。取材で見たのは、1秒間に960フレームという速度で撮影した、リンゴを矢で打ち抜くスローモーション映像だ。
「肉眼だと矢の動きさえ見えにくく、リンゴを突き抜く様子も見えない。最新のイメージセンサーを搭載したカメラだと、このような画像が撮れる。イメージセンサーは既に、人間の目の能力を超えた」。ソニーの大場重生IS事業戦略部統括部長は説明しながら、こう胸を張った。
イメージセンサーとは、カメラのレンズに集めた光を電気信号に変換し、画像データを作る機能を持つ半導体のこと。デジタルカメラの「目」の役割を果たす。デジタルビデオカメラやスマートフォンの内蔵カメラ、医療機器の内視鏡、車載用など様々な用途で活用されている。ソニーは世界シェア42%を占め、首位を独走する。
ソニーの大場統括部長は、イメージセンサーが3つの点で、人間の目を超えたと強調する。
肉眼より“4倍”も高速撮影
1つ目は「速度」。人間の目で認識できる速度の限界は、240フレーム/秒(fps)程度とされる。一般のテレビ放送は30fpsで、ゲームなど動きの速い動画でも60fps程度だ。一方、ソニーが2015年に発売した高級デジカメ「DSC-RX10M2」と「DSC-RX100M4」に搭載した最新のイメージセンサーでは、960fpsでの撮影が可能だ。
2つ目が「感度」。ISOという値が大きくなるほど感度が高くなり、光が少ない場所でも撮影が可能になる。蛍光灯の下で撮影する場合、ISO1000程度が目安となる。ソニーが2015年に発売した「アルファ7S Ⅱ」の搭載センサーは、最大ISO「40万9600」という高感度での撮影に対応。肉眼ではほぼ真っ暗闇にしか見えない状況でも、明け方くらいの明るさの画像が撮れる。
3つ目が「明暗差(ダイナミックレンジ)」。ドライブ時に経験したことがある読者も多いと思うが、暗いトンネルを走り出口に近づくと、出口の向こう側の景色が見えなくなることがある。肉眼では、明暗の急変動に対応しづらいからだ。ソニーが2016年中に車載用に量産予定のイメージセンサーでは、こうした現象を克服。「トンネル内の白線や壁だけでなく、出口の先もくっきり映せる」(ソニーの大場統括部長)。
現在の主流は「CMOS(相補性金属酸化膜半導体)」タイプ。2000年代までは「CCD(電荷結合素子)」方式が主流だったが、画像の高速処理ができ低消費電力で稼働するCMOSがイメージセンサー市場の中心となった。
ソニーは競合に先駆け、CMOSへの移行を決断。その後、配線と基板の位置を反転させ、小型化しても効率よく光を取り込める「裏面照射型」と呼ぶ新構造を開発。裏面照射型をさらに小型化できる「積層型」と呼ぶ新しい構造も生み出し、機能強化と生産効率の両面で競合を圧倒してきた。
自社製品向けだけでなく、幅広い企業に外販。米アップルのiPhoneの最新モデルなどにも搭載されており、中国勢など世界中のスマホメーカーから引き合いが殺到している。
このため2015年には、公募増資などで約4200億円の資金を調達。イメージセンサーの研究開発や生産能力増強へ投じることを発表した。加えて、東芝からイメージセンサーの生産ラインを買収することも決定。旺盛な需要により、ソニーのイメージセンサーの2015年度の売上高は、前年度比25%増の5700億円となる見込みだ。
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