人間が賢くなるために使えばAIは決して怖くない

岡野原:やはりオープンとクローズの両方の世界があります。米グーグルのような一部の企業だけが情報を持ってはいけないということで、オープン化を進めている組織もあります。グーグルは個人の写真データを数千億枚、1兆枚という規模で持っています。そこで既に様々な研究がなされている可能性はありますよね。

 AIの世界では、非常に優秀な一握りの研究者が論文などに書かれていないアイデアやノウハウを持っていると言われています。その人たちの採用合戦もし烈になっています。米国では、優秀な人材の採用には、メジャーリーガーと同じくらいの年俸が必要だとも言われています。

羽生:人材が欲しいがために会社を買っちゃうような世界ですね。

岡野原:ですからこれまでAIの研究をクローズでやっていた米アップルも、つい先日、オープンにすると言い出しました。研究者には論文で名を上げたいという心理があるので、優秀な人材にとどまってもらって能力を発揮してもらうためにも、そういう環境が必要だと判断したのでしょう。

西川:(アイデアやノウハウを)特許で守ることが難しいので、情報を公開して「我々は先進的な研究をしていますよ」と宣伝しながら、データと(データセンターなどの)計算資源を押さえることが重要なんです。我々がトヨタさんと提携したのも、自動車のデータを押さえたいということもあるんです。

学習方法を機械に学ぶ

羽生:将棋の世界でもソフトが強くなってきています。人間の棋士が朝から晩まで長時間の試合を毎日続けるのは不可能でも、コンピューターだとそれができてしまうんですね。

 ですから私が今、考えているのは、膨大なデータの中から機械が見つけ出した特徴を、人が学ぶことができないかということです。だいぶ先かもしれないですが、「学習する方法」を人が機械に学ぶ時代は来るのでしょうか。

岡野原:来ると思いますね。人間が最も学習しやすいのは、難しすぎず、簡単すぎない問題を与え続けられること。「フロー状態」と言いますが、これを機械がパーソナライズできればいいのだと思います。

西川:AIは人類の新たな道具だと考えればいいと思います。コンピューターのプログラミング言語が進化して、どんどん新しいアプリケーションが出てきたように、ディープラーニングも人間の想像力で発展させて、生かせばいい。むしろAIは人間にとって、楽しみの方が多いと思います。

羽生:これから機械がどんどん賢くなるのは目に見えているので、人間の知能も同時に上がっていかなければ、社会に導入する際に何らかのひずみが生じてしまうことになりますよね。

 だから、人間がより賢くなるためにAIの力を使うことができればすごくいいなと。AIを脅威に感じている人も多くいるでしょうが、そう考えれば怖くなくなるかもしれませんね。

(日経ビジネス2017年1月9日号より転載)