羽生:これから先、例えばクルマ以外のところでAIとかディープラーニングが目に見えて進んでいきそうな分野ってあるのですか。

西川 徹 Toru Nishikawa
プリファード・ネットワークスの創業者で社長兼CEO。1982年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。(写真=陶山 勉)

西川:例えば産業用ロボットがあります。人間は物のつかみ方を一度覚えればそれで済みますが、機械は試行錯誤しないとうまく取れるようになりません。でも、世界中のロボットをネットワークでつなげれば、物をつかむというモデルをすぐに作れるようになるのではないかと考えています。

羽生:確かに、知覚についてはこれからすごいことが起こるんじゃないかと思います。だって、人間の視力はどんなによくたって2.0。機械なら7.0でも10.0でも、何百倍、何千倍にすることができる。耳でも鼻でも同じですよね。それがつながって回るようになれば、ものすごいことができそうですね。

西川:人と違ってものすごく小さな物から大きな物までつかめるようになるなど、可能性は膨らみます。

音楽や絵画でもAIが創作

岡野原大輔 Daisuke Okanohara
プリファード・ネットワークスの創業者で取締役副社長。1982年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。(写真=陶山 勉)

岡野原:まだ見えていないAIの応用先として、クリエーション(創造)があります。人の下手な絵を格好いい絵にしてくれるなど、人間の創作活動のハードルを下げるという方向性です。

 演奏が難しいバイオリンしかなかった時代は、人間にとって音楽の創作活動は難しかったかもしれないけれど、ピアノの登場でハードルが下がった。これと同じように、音楽や絵画なんかでAIによる創作が世の中にあふれるようになるのではないかと思っています。

羽生:創造というのは、99%は過去にあった何かの組み合わせだと思うんですよね。ですからそうした意味での創造はAIでもできるようになるような気がします。

 将棋の世界では、AIが新しい発想やアイデアのきっかけになるということが既に起こっているんですよ。今、膨大な数のソフトが日々、対戦しているのですが、その中から創造的な作戦や戦法とかが生まれているんです。

西川岡野原:そうなんですか!

羽生:はい。でも、あまりに膨大な量のデータなので、ソフトを作った人はそれに気付いていない。棋士が見て初めて、「これって今までにないすごい戦法だよね」と分かる。

岡野原:それは面白いですね。そのひらめきみたいなものを人と機械が共有できれば、これまで以上のアイデアが生まれそうです。

羽生:PFNさんは「Chainer」という機械学習ソフトを無償で公開していますよね。公開する理由や意図はどこにあるのですか。

西川:僕らはディープラーニングの研究開発はいろいろな人がやった方がいいだろうと思っているんです。僕らはまだ60人くらいしかいないので、アプリケーション、具体的にはクルマやロボットに実装するところで勝負すればいいと。

 僕らの予想では、ディープラーニングはいろいろな分野で使えて、しかも成功するという状況がしばらく続きます。であれば、いろいろな分野で試してもらった方が世の中のためになる。

 あと、採用活動をうまく進めるという目的もあります。僕らも当初は名前が知られていなかったのですが、Chainerを出してからは、「日本でディープラーニングといえばPFN」と言われるようになりました。

羽生:この分野でも技術者の人だったり、プログラムを書ける人の数が足りないのですか。

西川:足りないですね。

岡野原:ただインターネットが登場してから変わってきてはいます。今では研究者が論文を公開すると、1週間後とか2週間後に別の国、別の企業や研究機関からその改良版が出るんです。

 笑い話ですが、学会で賞を取った人がプレゼンテーションで、「もうこれの改良版の改良版が出ているからそっちを使ってください」と言うくらい、日進月歩の世界なんです。

羽生:例えば企業として、情報はどこまでオープンにして、どこまでクローズにするのかといった、ルールというか暗黙の了解はあるのですか。

 というのも将棋の場合、対局が終わった後に棋士同士で、「ここが良かった」「あれが悪かった」といった意見を共有する「感想戦」があるんですね。そこには、ここまでは聞いてもいいけど、これは聞いちゃダメという暗黙の了解があって、それを踏まえて自由に話し合っているんです。

西川岡野原:へ~え。

羽生:ですからネットワークとかAIの世界ではどうなっているのかと。