中東の砂漠地帯。砂で汚れた太陽光パネルの上を、自動清掃ロボットが素早く動いている。開発したのは香川発の大学ベンチャー。砂塵による発電効率低下に悩む中東の救世主に。
水を使わず自動清掃
内蔵するブラシが砂の汚れを掃き出すため、水を使わず清掃が可能に。重さは28kg、一人で持ち運ぶことができる
中東ではメガソーラーの建設計画が相次ぐ。砂漠地域での太陽光パネルの清掃は発電効率の改善に直結する
高松市の中心部から車で約25分。香川大学発のベンチャー向けに用意されたオフィス棟に入居する未来機械という会社に、ひっきりなしに英語の問い合わせメールが届いている。
「最近は毎月のように中東に出張です」。同社の三宅徹社長は忙しそうに話す。主要顧客は日本にはいない。砂ぼこりが吹き荒れる地域が商売相手だ。
未来機械が手がける自動清掃ロボットは、まるで家庭用ロボット掃除機のように太陽光パネルの上を動き回り、汚れた表面を奇麗に掃除している。
主な取引先は中東地域の電力公社など。広大な砂漠を利用した大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設が相次いで計画されている。しかし、雨が降らず、砂ぼこりがパネルに積もる砂漠地域では、1カ月間でも放置すれば発電効率が10~15%も低下する。それを避けるためには、約1週間ごとに手作業での掃除が必要とされている。
人手による砂漠でのパネル掃除は困難を極める。清掃員が水で塗らしたモップで表面を拭こうにも、広いもので東京ドーム10個分にも及ぶメガソーラーの清掃には多大な人件費がかかる。気温が40度を超すこともあり、熱中症などの問題もあった。
中東・アフリカで市場が急拡大
●同地域でのソーラーパネル設置規模
出所:IHSマークイット
清掃コスト5分の1に
その点、未来機械のロボットは1回の充電で2時間稼働し、1時間あたり200平方メートル程度の清掃能力を持つ。それに加え、ロボットに内蔵するブラシが回転し砂を外にはじき出す構造で、水を使わないでよい点が画期的だ。
作業が終わればパネルの下側まで自動的に戻ってくる。人手が必要なのは主に電池交換の時だけ。人手の清掃と比べて総コストは5分の1だ。
未来機械は2013年にロボットを開発。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールの3カ国で2年間の試験運用を経て、精度を高めてきた。2017年から本格量産を始める。
「パネルの清掃は、大手電機メーカーなどが参入してこないニッチな市場。実績を早く積めば、シェアを独占できるチャンス」と三宅社長は力を込める。
資源依存からのシフトを目指す中東での太陽光パネル市場の伸びは大きい。調査会社IHSマークイットの調べによると、2020年には中東・アフリカでのパネル設置規模が2016年の3~4倍に膨れあがる。インドなどでもメガソーラーの建設計画がある。
将来性に目をつけたバイオベンチャーのユーグレナなどが出資するファンドから、約1億円の出資を受けた。未来機械は2020年度の売上高を30億円にすることを目標としている。
ロボット製造者としての三宅社長の原点は少年時代に遡る。生まれは香川県から瀬戸内海を挟んで向かい合う岡山県。実家は菓子用や弁当などに使われる折り箱の製造工場を経営していた。
中学生だったある日。突然、工場に全自動の機械がやって来た。これまで手作業中心で作り上げてきた折り箱を、瞬く間に機械が作り出す。その光景を目にした三宅少年の心に火がともった。
その後、香川大学に進学。NHKが主催するロボットコンテストに参加し、大学世界大会でアイデア賞・ベストパフォーマンス賞を受賞した。その時のチームメートたちと在学中の2004年に未来機械を設立した。
窓拭きロボットから進化
最初に手がけたのは窓清掃ロボット。吸盤でガラスに張り付き、自動で窓を拭く機能が評判を呼び、2005年の愛知万博で出展することとなった。
三宅徹社長。ロボコン世界大会に参加した経験が、現在の開発に生きている
そこで出会いがあった。万博へ視察に訪れた大手メーカーの技術者の目にとまり、「太陽光パネル清掃にその技術を使えば、大きなビジネスになる」との指摘を受けた。現在の事業に結びつくアイデアが生まれた。
そして、2009年に就任したオバマ米大統領が自然エネルギー分野への巨額投資の方針を打ち出し、パネル清掃ロボットの需要が生まれると確信した。
開発のため訪れたのは米カリフォルニア州の砂漠地帯。驚いたのはその広大さだった。砂漠では清掃用の水を用意するのも大きなコストだ。灼熱の中で安定的に自動走行する必要もある。開発の基本コンセプトは固まった。
水を使わないために、砂を掃き出すブラシの開発に力を注いだ。素材の種類や太さなど数十種類の試作品を作り、世界各国の砂質に対応できる組み合わせを見つけ出した。
自動走行にはパネルの端を正確に検出する機能が必要と分かり、砂ぼこりが舞う環境でも精度が落ちない自社センサーを開発。価格は量産化でロボット1台200万~300万円に抑えられる見込みだ。
大学発のベンチャーとして、最新技術を製品に詰め込みたいという思いは強い。だが、踏みとどまった。定期的な整備が必要なフィルターなどを省き、年1回のブラシ交換で10年間稼働できる構造にして、実用性を優先した。
実用性重視の設計に導いたのは、14人いる社員の半数を占める地元大手メーカーOBなどのシニア社員。最高齢は80歳だ。「メンテナンスを意識した開発や、製品紹介時のコツなど、幅広いアドバイスをもらえる」と36歳の三宅社長は話す。
未来機械はその名の通り「未来の機械を次々と作り出す」という目標を掲げる。パネル製造ロボットだけで終わらないつもりだ。「ロボットで作業を改善できる領域は無限に広がる」と三宅社長。ロボコン出身の筋金入りの情熱は尽きることがない。
(日経ビジネス2017年1月23日号より転載)
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