反転授業とアクティブラーニングを導入

 知財入門の授業では、学生の理解度を高めるためにいろいろな工夫を凝らした。まず「反転授業」というやり方を採用した。各授業の前に、学生には授業内容の予習として、山口大知的財産センターのパソコンサーバーに収められた各予習ビデオ画像を見るように伝えた。

 例えば「特許権」の授業では、「特許」「特許権」という言葉の意味などの基礎知識を予習ビデオによって学ばせた。多数の学生が同時に各パソコンからアクセスしても不具合が起こらないように、サーバーには十分な容量を確保した。各授業の冒頭では、実際にサーバー内の当該予習ビデオを見たかどうかをワークシートに記入させた。平均して90数%の学生が予習してきたという。

 事前に簡単な知識を持たせることで、授業では議論にすぐに入れるようにした。予習で得た知識を用いて課題を解いたり、グループで議論したりすることを、最近は「反転授業」と呼ぶ。これは最新の授業手法である。

 この「反転授業」は、実際の授業時には「アクティブラーニング」と呼ぶ、教員が一方向的に講義する形式ではなく、学生が議論などを通じて能動的に学ぶ授業形式を実現するやり方の前提になっている。

 翌年の2014年度からは「展開科目」と呼ぶ学部の2年生から4先生を対象にした専門科目(選択科目、2単位)を始めた。例えば、「ものづくりと知的財産」「知財情報の分析と活用」「コンテンツ産業と知的財産」などの展開科目があり、各学部の専門科目を支援する専門知識が得られる。さらに、2015年度からは「特許法」「意匠法」「商標法」「著作権法」「不正競争防止法」と、法学部の学生を強く意識した展開科目も始めた(他学部の学生も受講できる)。

 さらに、農学部を意識した展開科目「農業と知的財産」も始めた。同授業を担当する陣内秀樹准教授は、「農業というと、新品種などの育成者権がすぐに頭に浮かぶが、最近の農業ではそれだけではなく当該品種の品種名の商標や農業技術の特許や実用新案などを戦略的に押さえることが求められている」という。農業でも農作物やその応用製品などのブランディングなどによる高付加価値化や事業性の向上など、これからの日本の農業に必要な知識を教える内容である。

 1年生向けの必修科目の授業は、すべての授業内容をビデオ撮影し、実際にどのように教えているかを記録したDVDを作製した。この授業内容のビデオ撮影は、いずれ山口大の各学部の教員がこの当該授業を教えることを想定した授業法のノウハウの移転を目指したものだ。同時に、山口大が知的財産教育の拠点校として、他の大学に知的財産教育を伝える場合にも備えたものでもある。

 実は、山口大大学院の研究科でもより高度な知的財産教育を始めつつある。さらに、山口大は2016年度から“理工系”大学院で、高度な知的財産教育を必修科目化する。こうした今後の発展を考えると、当該授業を担当できる教員を増やすことに迫られることが予想される。こうした授業法の伝授は、他の大学や大学院、高等専門学校などへの知財教育の伝授にも役立つ。

知的財産教育の導入法などを伝授

 実は山口大は、「知財教育シンポジウム」に先だって、前日の3月8日に同じ場所で「知的財産教育 FD・SDセミナー in 田町」を開催した。「FD」とは、Faculty Developmentの略称で、各大学などの教員の授業内容の改善を意味する言葉。今回は知的財産教育を導入したいと考える大学や公的研究機関、行政機関などの担当者に対して、知的財産教育の導入法やカリキュラム化について伝えた。

 また「SD」とは、Staff Developmentの略称で、知的財産教育を導入する大学などの事務職員や支援スタッフなどの改善を意味する。教員に加えて、支援スタッフなどが知的財産教育の中身を理解しないと、実際にはカリキュラムや授業が進まないため、SDの位置付けも重要である。

 山口大は知的財産教育の教育関係共同利用拠点として、これまで培った知的財産教育のノウハウとなるFD・SDメニューとしての教材の提供や、当該大学での知的財産教育の教材開発支援やコンサルティングなどを行う。

 3月9日に開催した「知財教育シンポジウム」の基調講演に登壇した内閣官房知的財産戦略推進事務局の横尾英博事務局長は「日本でのイノベーション創出の源泉となる知的財産教育の推進が重要」と指摘した。そして知的教育タスクフォースでは「知的財産教育教材の開発法や、その教材を用いた知的財産教育の拠点(モデル校)による水平展開などを議論した」と説明した。この文脈は、山口大が知的財産教育の拠点校として動き始め、実績を積んでいることを前提とするものである。

丸山 正明(まるやま・まさあき)

技術ジャーナリスト。元・日経BP産学連携事務局プロデューサー
東京工業大学大学院非常勤講師を経て、現在、横浜市立大学非常勤講師、経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所の事業評価委員など。