山口大は知的財産教育のノウハウ・教材を公表

 山口大は、前述したように2013年度から全学部での知的財産教育の実践を始めている。この支援策として、文部科学省は2013年度から特別運営費交付金を3年度にわたって出している。その3年度目の終了間近である2016年3月9日に、山口大は「知財教育シンポジウム in 田町 2016」を開催した。山口大が始めた知的財産教育の授業内容とその後の改善内容などを、聴講した他大学・大学院の教員、職員などに伝えて、山口大の知的財産教育が移植されることを目指すシンポジウムだ。

 山口大の三池秀敏理事(学術研究担当)・副学長は「このシンポジウムの目的は、弁理士や特許庁の審査官などの知的財産の専門家を育成することではない。各学部の卒業生が、会社員や公務員、大学などの研究者などのさまざまな職業の社会人になった時に、特許や著作権などの知的財産を利用する立場で、いろいろな課題を的確に解決できる素養が養成できるような知的財産教育の内容を伝えること」と強調した。簡単にいえば「イノベーションを起こす人材育成を目指した、知的財産利用の素養を教える授業内容を、日本の他大学に伝えたい」ということである。

 山口大での知的財産教育を推進する中心人物の一人である佐田センター長は、今回、知財教育シンポジウムを開催した背景を「2015年7月30日に、文科省は山口大を『知的財産教育の教育関係共同利用拠点』と認定した。この結果、山口大は希望する他大学に知的財産教育の教え方やその教材などを提供する中核大学になった」と説明する。この知的財産教育の教育関係共同利用拠点は、山口大が初めて認定され、現在でも唯一の存在になっている。

2013年度から実施した3年分の授業実績を報告

知的財産センターの副センター長の木村友久教授
知的財産センターの副センター長の木村友久教授

 シンポジウムでは、知的財産センターの副センター長の木村友久教授が2013年度から実施した全学部での知的財産教育の概要を説明した。

 2013年4月から教育学部、経済学部、理学部など8学部(2013年当時)の1年生約2000人全員を対象に、「科学技術と社会 ○○学部生のための知財入門」を必修科目として始めた。授業内容は、知的財産の概要の導入編から始め、著作権、特許、特許情報の収集・分析、意匠、商標などの各論という構成である。著作権と、「産業財産権」である特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つを主に教える授業構成とした。

 木村教授は「現在、山口大に入学してくる高校生の多くは普通科の出身者が多く、知的財産については高校では授業を受けていない。このため、著作権や特許権という言葉を表面的にしか知らないのが現状」という。このため「まず著作権の授業では、大学の授業の宿題として課す授業レポートを、あるWebサイトや書籍などから丸写しする“コピペ”は著作権侵害であり、刑法の対象となる犯罪だと伝えており、このことに学生は強い関心を示す」という。

 知的財産は、社会人になっても仕事にはあまり関係ないものと、理学部・工学部以外の学部学生はつい考えがち。しかし「社会人になって、例えば会社の製品にイメージキャラクターを利用する場合にも、著作権や商標権などの知識が必要不可欠になるとの説明には、興味を示す学生が多い」という。

 実際の授業は知的財産センターのスタッフ6人で担当しており、いろいろな工夫が必要になった。その上、山口大はキャンパスが3カ所に分散しており、キャンパス間の移動が必要になる点にも工夫が必要になった。

 このため、知財入門の授業は、前期に1単位(授業は8回)で構成した(後期には予備授業を予定)。1講義当たりの聴講する学生数を100人程度とした。

 各授業では“ワークシート”と呼ぶ授業内容を書き込むツールを各学生に配って、授業の理解度をつかんでいる。このほかに、8回の授業の途中で、学生の理解度を測る小試験などを実施し、その理解度を確認しながら授業を進めている。

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