店舗に到着したら、アプリに表示されるQRコードを、店頭のリーダーで「SCAN」すれば購入完了。店内のモニターで、自分のオーダーが出来上がってくる順番が確認できる。あとは出来上がったアツアツのグリルチーズサンドを受け取り、そのままオフィスに持ち帰ってもいいし、店内のイートインスペースで「ENJOY」することもできるというわけだ。

 つまりザ・メルトは、来店前にオンラインで選択を行わせ、オフラインの店舗で購入させている。

「価値のない時間」を大幅に短縮

 ランチの時間に店頭で並ぶのは大好きだ、という顧客はあまりいない。「店内でゆっくり過ごしたい」「オフィスに持って帰ってから食べたい」など、顧客が求める価値は圧倒的に購入の後にある。店で待つ時間は、できれば短いほうがよい。ザ・メルトのプレオーダー・システムは、顧客にとって価値の少ない待ち時間を大幅に短縮することで、これまでになかった購買体験を実現したのだ。

 そしてザ・メルトから見れば、顧客の選択段階に入り込むことで、顧客を囲い込めるという利点がある。通常のファストフードであれば、顧客の検討は街を歩いている時に行われる。ランチなどの際に、オフィスの最寄りの店舗を目指していくこともあるだろうが、その店にたどり着く前に心変わりして、他店へ行ってしまうかもしれない。あるいは店にたどり着いても、そこが混雑していれば、やはり他の選択肢を考えることになる。つまり選択肢の多いオフィス街で、ランチを提供する外食店にとって、来店前に顧客を囲い込むことはかなり難しい。

 しかしザ・メルトの顧客は、待ち時間が少なくて済む店舗であることを知っているので、躊躇なく来店前に意思決定を済ませてしまう。ザ・メルトはマクドナルドやスターバックスのような強いブランドとは言い難いが、顧客のスマートフォンにアプリというチャネルを埋め込むことによって、強い顧客とのつながりを築いているのだ。(了)

筆者/奥谷 孝司
オイシックスドット大地COCO(チーフ・オムニチャネル・オフィサー)

1997年良品計画入社。2005年衣料雑貨のカテゴリーマネージャーとして「足なり直角靴下」を開発して定番ヒット商品に育てる。2010年WEB事業部長に就き、「MUJI passport」をプロデュース。2015年10月にオイシックス(現オイシックスドット大地)に入社し、現職に。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。2017年4月から一橋大学大学院商学研究科博士後期課程在籍中。2017年10月Engagement Commerce Lab.設立。日本マーケティング学会理事。


筆者/岩井 琢磨
大広プロジェクト・マネージャー

1993年大広入社。インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクター、ブランド・コンサルタントなどを経て現職。流通業・製造業などの企業を対象とした、部署横断型の事業変革プロジェクト、企業ブランド再生および企業コミュニケーション設計プロジェクトを数多く手がけている。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。著書に『物語戦略』(共著、日経BP社)、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』(共著、日本経済新聞出版社)がある。日本マーケティング学会会員。

世界最先端のマーケティング
奥谷 孝司・岩井 琢磨(共著)
定価:1800円+税

●目次 【PART1】アマゾンの脅威/ 【PART2】チャネルシフトの最前線/ 【PART3】店舗至上主義の限界/ 【PART4】購買体験をデザインする/ 【PART5】無印良品のつながり/ 【PART6】つながりがマーケティングを変える

●取り上げている事例 Amazon Go/Amazon Books/Amazon Dash/Amazon Echo/Whole Foods/instacart/LE TOTE/BONOBOS/THE MELT/Warby Parker/ZOZOSUIT/DIFFERENCE/IKEA Place/ニトリ手ぶらdeショッピング/MUJI passport/いきなり! ステーキ/Oisix/全国タクシー