「この店舗のあり方は、従来のファストフード店とは、まったく異なる。例えばマクドナルドは、繁華街の好立地に大型店を出し、顧客を吸引している。それは資本力があって初めて可能な店舗戦略である。そしてその大型店舗のオペレーションを可能にするのが、練り上げられたマニュアルであり、鍛えられた店員であろう。これに対してザ・メルトはこのような大手が持つ店舗や店員ではなく、顧客の買い物行動をデザインし直すことによって、好立地での出店と、回転率の高い店舗を実現している。

 他社が既存の店舗の機能拡張として、プレオーダー・システムを模倣することは、もちろん可能だ。事実、スターバックスなどは全米でのプレオーダー・システム導入を加速しており、すでにモバイルオーダーは全体の9%に上っているという。しかしこういった企業が、これまで培ってきた大型店舗や店員という資産を捨ててまで、『購入に特化した小型・好立地店舗』にすべての舵を切ることはしないだろう。ザ・メルトは独自のチャネル設計によって、ライバルがひしめくファストフード業界において『効率的な勝ち方』を実現していると言える」

「ザ・メルト」

 このように紹介したザ・メルトというファストフード店は、サンフランシスコの市内にあるグリルチーズサンドの専門店である。一見どこにでもありそうな普通のファストフード店だが、外食産業でのチャネルシフトにいち早く取り組んだ、先駆的な存在だ。

 ザ・メルトがファストフード業界で起こしたチャネルシフトは、セコイア・キャピタルなどの米大手ベンチャーキャピタルからの注目を集めて多くの投資を獲得し、西海岸を中心に店舗数を拡大している。

ORDER→SCAN→ENJOY

「ザ・メルト」は自社が提供する購買体験を、ORDER→SCAN→ENJOYという3ステップで説明している

 ザ・メルトの購買体験における他社との大きな違いは、顧客時間の選択段階に、アプリという選択チャネルを送り込んでいることだ。

 ザ・メルトの創業者ジョナサン・カプラン氏は、IT業界を出自とする人物だ。かつて、小型低価格で誰でも簡単に撮影できることから一世を風靡した、「フリップ・ビデオカメラ」という製品があった。いまや動画もスマートフォンで撮影する時代だが、当時としては革新的だったこのカメラの製造会社を立ち上げたのが、カプラン氏だった。カプラン氏は旧態依然とした外食産業に、テクノロジーによって新たなビジネスモデルを創り出そうと考え、ザ・メルトを創業した。

 ザ・メルトの価値は、「ランチタイムに、できたてのグリルチーズサンドがすぐ買える」ことである。そのためのオーダーシステムと、それによって実現している購買体験が秀逸なのだ。

 ザ・メルトは自社が提供する購買体験を、ORDER→SCAN→ENJOYという3ステップで説明している。まず顧客は来店前にアプリを起動して商品を選択し、「ORDER」を完了する。チーズバーガーやサンドイッチ、サイドオーダーなどから食べたい商品を選んでオーダーすると、最寄りの店舗案内と共にQRコードが付与される。