前回から読む)

 前回はアカデミックな話から始めたので、今回は我々の実務経験の話から始めよう。

 『世界最先端のマーケティング』の中では、「顧客時間」と名付けたフレームワークを提示している。これは我々が実践から着想したものである。筆者・奥谷が、良品計画でオムニチャネル化に取り組んでいた時に開発したものがベースになっている。

 そこで「顧客時間」に注目した先行事例として、無印良品の「顧客とのつながり」を支えているスマートフォンのアプリ、MUJI passportを取り上げよう。

 MUJI passportは、筆者・奥谷が前職の良品計画時代に開発を主導し、2013年から展開している。簡単に言うとロイヤルティプログラムのアプリ版である。多くのスーパー等でプラスチック製のカードで行っているポイントやマイルの付与を、スマートフォンのアプリで可能にした。店頭での購入時にアプリのバーコードをスキャンすると、1円につき1マイルが付与される。このマイルがある程度までたまると、有効期限付きの金銭価値のあるポイントを付与するという仕組みだ(例えば20000マイル取得すると、200円分のポイントが1カ月の有効期限で付与される)。

無印ファンのための「入り口」を用意

 このチャネルをアプリという形で作ったのは、「顧客とのつながり」をつくり、顧客時間を把握することが目的だった。オンラインでつながることによって、「選択→購入→使用」という顧客時間が大まかでも把握できるからである。

 現代の顧客はいつでも、どこでも、好きなブランド、気になる商品があれば、オンライン上で検索を始める。無印良品が好きな顧客に、わざわざグーグルの検索窓から「無印良品」に入ってもらうような面倒なことをするくらいなら、アプリという「無印良品への扉」を提供し、いつでもワンタップで入れる環境を作ったほうが、他のブランドよりも強いつながりを築くことができる。