だが連結で5万人近い従業員を抱え、1兆5269億円の売上高を誇る凸版でも、一方的な復興投資には限界がある。半谷氏も「被災地・企業の双方が利益を得る仕組みでなければならない。志はソーシャル、仕組みはビジネス」と説く。

 凸版の研修では最終的に「自社のソリューションを生かし、被災地の復興のためにどんなビジネスが可能か」を議論する。参加者はこの研修を通じて、何らかの新規事業案としてアウトプットすることが求められる。凸版ではそれが実現可能な場合、予算を付けプロジェクトチームを立ち上げることも視野に入れている。

 こうした半谷氏や凸版の取り組みに賛同する企業が徐々に増えてきた。初年度はツアーに参加したのは凸版、三菱商事、東芝の3社だけだったが、昨年度はNEXCO中日本・東日本や三菱電機など8社にまで拡大。参加者総数は1000人を超えた。

グロービスでの講義
グロービスでの講義

グロービスで理論も学べる

 最近、あすびと福島と凸版の両者は、プログラムに「グロービス経営大学院での講義」を取り入れた。研修初日、グロービス仙台校では半日かけて半谷氏の半生をベースにしたケーススタディを扱う。

 南相馬市出身の半谷氏は原発事故の被災者であると同時に、東京電力の元執行役員だった経歴を持つ。半谷氏は原発事業には直接関わらず、新規事業などを担当し、2011年3月11日時点では関連会社の役員を務めていた。「元東電マンとして責任を感じている」と半谷氏。

 社員研修ツアーを始めたのも、東電時代のノウハウを生かし、地元の復興に一役買いたいと考えたからだ。グロービスの授業では数奇な運命を持つ半谷氏の半生そのものが「教材」になっている。

生の現場の迫力に圧倒

 グロービスでの「机上の理論武装」を終え、研修のハイライトは冒頭に描写した「原発20km圏内」でのフィールドワークだ。

 研修事業を始めた当初は、原発20km圏内は通行規制が敷かれ、現地での行動範囲も限られていた。しかし、2015年秋までに国道6号線(富岡-双葉町間)が規制解除となり、常磐自動車道も全線開通した。そのため、よりリアルに、現場を知ることが可能になった。

 凸版の研修では、避難指示で誰も住めなくなった町を視察する。現在も富岡町の中心部は5年前のまま、時間が止まっている。地震や津波で破壊された家屋が生々しく残る。新聞販売店の軒先には2011年3月12日付の新聞がうずたかく積まれたままになっていた。

除染作業でできた汚染土の仮置き場
除染作業でできた汚染土の仮置き場
震災直後の新聞が積まれたまま
震災直後の新聞が積まれたまま

 バスの車窓から外を眺めていると、放射線防御服を着用した除染作業員の姿、広大な汚染土の仮置き場が次々と現れる。凸版の営業・管理部門の宗田いずみさんは「普段はシステム開発を主としたオフィスワークがほとんどでこのような衝撃的な現場に来ることはない。被災地のことを事前勉強してきたつもりだったが、生の現場とのギャップを感じた。震災から5年も経過するのに福島の沿岸部が復興以前のレベルであることに愕然とした」と感想を述べた。