ボタンを押す力や、稼働する機械のわずかな揺れを電力に変換。エネルギーを自給自足できる、数センチ四方の「小さな発電所」。技術革新で幅広い「周波数」を活用でき、普及が視野に入ってきた。

様々な「揺れ」を利用し電気を生み出す
●振動発電の活用が想定される主な分野
様々な「揺れ」を利用し電気を生み出す<br/>●振動発電の活用が想定される主な分野
(写真=背景:Getty Images)
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 「IoT(モノのインターネット)」には大きな弱点がある。電源だ。

 世界中のあらゆる場所にセンサーを設置し、ネット経由で情報を収集するといっても、機械を動かす電力がなければ絵に描いた餅となる。センサー全てに電線をつなげるのは非現実的で、電池を内蔵するにもコストがかさむ。

 こうした問題を解消すると期待されるのが「振動発電」。自動車や鉄道の通行に伴う縦揺れや、空調機器のモーターの定期的な振動などをエネルギーに変換する技術だ。「一般的にイメージする振動に加え、人間が押したり踏んだりする力を利用する手法もある」と、振動発電などの業界団体の事務局を務めるNTTデータ経営研究所の竹内敬治シニアマネージャーは指摘する。

 従来は発電効率が悪かったが、「広帯域化」などの工夫でボトルネックを解消。様々な種類の揺れを、効率的に電気に変換できるようになってきた。普及すれば、世界中のあちこちに「小さな発電所」が生まれ、IoTを支えるエネルギーを自給自足できるようになる。

 その一端は、意外なところで発見できる。家庭のトイレである。

 TOTOが今年2月に発売した最新型のトイレ。壁に設置されたリモコンには見慣れた操作ボタンが並び、見た目はごく一般的だ。試しに「流す」と書かれたスイッチを押すと、遠隔操作で便器に水が流れた。だが、TOTOの担当者によると、このリモコンは電源につながっておらず、電池も内蔵していないという。どうして流れたのか。

 これこそが振動発電の成果だ。指でスイッチを押すと、リモコン内部で力が伝わり、リモコンに内蔵された発電装置の磁石が回転し、コイルとの間で「電磁誘導」が起きる。結果、電気エネルギーを生み出すという仕組みだ。この電力を使ってリモコンが電波信号を発信し、トイレに水を流した。

 TOTOエレクトロニクス技術本部電子機器開発部の山中章己グループリーダーは「スイッチの押し心地なども含めて研究開発に約3年をかけた。電波を送信する際の消費電力を削減するのと同時に、発電能力を高めた結果、実用化に至った」と話す。TOTOはこの機構を「エコリモコン」と名付けた。トイレに限らずあらゆるリモコンへの応用が可能だ。

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