
2016年11月8日に福岡市で起きた道路陥没事故は日本中に衝撃を与えた。幅27m、長さ30m、深さ15mの穴は、隕石の衝突でできた跡のようだった。急ピッチの復旧作業で翌週に通行を再開できたが、26日に路面が最大7cm沈下。再び交通規制を余儀なくされた。
これは特殊なケースではない。福岡の事故は、地下鉄工事のたて坑に道路下の土砂が流れ込んだことが原因だったが、都市の地下には水道や電気、ガス、通信関連などの人工埋設物が縦横無尽に走っている。
こうした埋設物が原因の陥没は日本各地で頻繁に起きている。
中でも水道管が原因の陥没は多く、毎年3000件以上に達する。国内では1960年代以降、下水道の整備が急速に進んだ。それらの水道管は設置から約半世紀がたち、いつ破損してもおかしくない状況にある。
●下水道管の年度別および累計整備距離

地下の空洞が道路陥没を引き起こすメカニズムはシンプルだ。まず老朽化した水道管などに亀裂が生じ、管内に地中の水が流れ込む。この時、周囲の土砂も水に混じって管内に入り、管の周囲に小さな空洞を作る。やがて空洞上部の土が落下。空洞は規模を拡大しながら地表に向かって移動していく。
水道管の破損に起因する陥没を未然に防ぐ方法は3つある。1つ目は一定規模の空洞が地表近くに発生した段階で発見すること。2つ目は水道管の劣化診断。3つ目が耐久性の優れた水道管への切り替えだ。
潜水艦ソナーと同じ原理
多くの企業が地中の空洞探査を手掛けているが、基本技術はほぼ共通している。地中に向けてレーダーから電磁波を放ち、その反射から埋設物や空洞を見つけ出すというもの。潜水艦のソナーや航空レーダーと同じ原理だ。国土交通省は陥没を防ぐには「深さ1.5m以内にある、高さ10cmで底面50cm四方」の空洞を見つけることが有効だとしている。企業や研究機関はこの基準をクリアした上で、探査の精度や深さ、スピードなどを競っている。
草分け的な存在として知られるのが、ジオ・サーチ(東京・大田)だ。会社設立は1989年。その前年、東京・銀座で2週間に12件もの道路陥没が発生し、都や建設省(現・国交省)が地中探査技術の確立に乗り出した。同社も建設省に協力する過程で、技術を磨いた。
ジオ・サーチの調査サービス「スケルカ」は、地中の様子を高解像度の3次元データで再現するのが特徴だ。競合他社は専用車1台に10個前後のレーダーを積むが、同社は数十個を搭載。4万カ所で15万kmを走行調査してきた知見を基に、発見だけでなく、見つけた空洞が陥没につながる危険度まで判定するソフトウエアを開発した。
ジオ・サーチの小池豊・取締役研究開発センター長は「空洞を1つ見つけて良しとするのではなく、1つも見逃さないことにこだわってきた」と語る。この方針は、同社が数年間カンボジアなどで地雷除去に従事した時に生まれた。
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