新しい商品やサービスの創造を狙い、ソニーやパナソニック、日立製作所など国内の大手企業が注目している手法がある。それがデザイン思考だ。優秀なデザイナーやクリエーティブな経営者の思考法をまねることで、新しい発想を生み出そうとする手法である。ビジネスに活用すればイノベーションを起こせるのでは、と大いに期待されている。活用しているのは製造業だけではない。金融の分野でもデザイン思考の事例が出始めた。
オリックスと同グループ傘下で会計ソフトを手がける弥生(東京・千代田)は、2017年12月から共同で推進している金融サービス「アルトア オンライン融資サービス」の開発に、デザイン思考を活用していることを明らかにした。同サービスはオリックスの与信ノウハウ、弥生が持つ会計のビッグデータ、さらに協業先であるd.a.t.のAI(人工知能)を生かし、新しい与信モデルによる50万円~300万円の短期・小口に特化したオンラインでの融資サービス。日本では新しいサービスということで、提供側だけでなく、ユーザーとなる中小企業の経営者の視点が必要と判断。独自のデザイン思考の手法を備える東京・渋谷のデザインファーム、ロフトワークの支援を得て、新サービスの内容をどうするか、ユーザー企業にどう認知させるかなどを検討した。
デザイン思考ではユーザー企業の考え方やニーズを深掘りし、プロトタイピングなどを繰り返しながら、新しい商品やサービスを開発していく。通常はコンシューマー向けのプロダクトに応用するケースが多いが、金融サービスの開発に使う例は珍しい。ビッグデータとAIという中核の技術をそのままアピールするのではなく、デザイン思考を加えたことでユーザー企業の視点からサービスを打ち出すことができたという。技術によるメリットをユーザーにどう示すと最大の効果を得ることができるのか、といった点を探る上でもユニークな事例と言えそうだ。
潜在顧客の「声」からサービスを設計
オリックスと弥生は、新サービスの運営のために両社で新会社のアルトアを設立した。開発にあたっては、まず弥生のユーザー企業にマーケティング調査を独自に実施しており、一定の需要を見込めると判断した。半面、融資に対するマイナスのイメージを持つユーザー企業も多く、単に新サービスのメリットを訴求するだけでは不十分と考え、デザイン思考を取り入れることにした。
ロフトワークに与えられたアルトアからのミッションは「潜在顧客を見極め、融資に対するイメージの根源を探る」ことと、「使ってみたくなるサービスのコンセプトや画面の開発」だった。そこで最初に、ターゲットとなる中小企業の経営者にインタビュー。その結果を共同でディスカッションしながら分析した結果、経営者に共通する価値観や行動パターンなど34の気づきを得たという。例えば「経営者は常に予期できない不安と戦っている」「経営者には身近に信じられる人が重要」など、経営者が置かれている状況が分かった。この内容を基に、次には経営者が事業を進めていく過程で、どんな心理状態になると資金需要が生まれるのかを探った。そこに融資の機会があるからだ。

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