東洋ゴム
東洋ゴム
スポークをX字形に交差させた構造を採用した。左右対称なので車両の両側で交互に使えるというメリットも

 「将来のモビリティー社会を見据え、あくまで乗用車向けにこだわりたい」。そう語るのは、東洋ゴム工業で空気レスの開発に携わる柏原直人グループ長だ。折り畳み式椅子に着想を得た同社の空気レスタイヤ「ノアイア」は、スポークをX字形に交差させた構造。左右対称になっているので、車両の両側どちらのタイヤとしても使える。前後左右でタイヤをローテーション装着しながら摩耗の度合いを平準化するという、通常の空気入りタイヤで一般的な使用方法も可能になる。

 タイヤの起源は、チグリス、ユーフラテス川流域に暮らすシュメール人が、半円状の木の板をつなぎ合わせて車輪として使い始めた約5000年前まで遡る。当時は外周に動物の皮を装着し、ローマ時代には外周に鉄を焼きはめるタイヤも登場した。それから長らく、人類にとってタイヤといえば「空気レス」を指した。

130年ぶりのパラダイムシフト

「空気レス」の開発はタイヤ史の転換点に
●車輪とタイヤの進化の歴史
「空気レス」の開発はタイヤ史の転換点に<br />●車輪とタイヤの進化の歴史
出所:JAF「タイヤのパンクに関するアンケート調査」
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 空気入りが登場するのは1888年。英国人のダンロップ氏が息子のために、自転車用のタイヤを作ったのが発祥だ。乗り心地が格段に向上したことで、すぐ世界中に広がった。メーカー各社はその後もラジアルタイヤやスタッドレスタイヤなど、新しい技術を生かした製品を開発して投入している。だが基本的には「空気入り」の改善にすぎない。空気レスの開発は業界にとって、約130年ぶりのパラダイムシフトとも呼べる出来事なのだ。

 メンテナンスの考え方も大きく変わりそうだ。

 エンジン車のユーザーは、定期的にガソリンスタンドを訪れる。スタンドには車両知識が豊富な店員が待機しており、空気圧の低下を確認してくれる。だがEVが普及すれば充電は自宅のガレージで済ませるケースが増えるだろう。エンジン車に比べてメンテナンスがおろそかになるユーザーが増えることは想像に難くない。

住友ゴムの空気レスタイヤを装着したゴルフカート
住友ゴムの空気レスタイヤを装着したゴルフカート

 さらに自動運転技術が進展してライドシェアの時代に移行すれば、そもそもクルマは所有するモノですらなくなり、定期的なメンテナンスを心がけるユーザーはいなくなるだろう。車両の提供事業者がメンテナンスを担うにしても、常時タイヤを見張っているわけにもいかない。メンテナンスの手間を省ける空気レスのニーズが今後高まるのは確実といえるだろう。

 米国では仏ミシュランが5000万ドル(約56億円)を投じて建機向けの空気レスタイヤ工場を造り、量産を始めた。「お父さん、パンクってなあに?」。そんな親子の会話を耳にする日が、すぐそこにまで迫っている。