太平燕と熊本ラーメン

 小山さんが紹介してくれた「おかみさんクリエイター」は、3人とも東京を意識しているのではなく、地元を大切にし、かつ多くの人に来てもらうことを命題としている。

 そして、3人とも地元の食に通暁している。県外から広く人を集める際の武器になるのが、熊本に行かなくては食べられない料理である。熊本名物のうち、たとえば、からしれんこんは取り寄せてもいい。しかし、太平燕、熊本ラーメン、馬肉の刺身などは現地に行って味わうものと言える。

 まずは太平燕(タイピーエン)。中国の福建省発祥の料理だけれど、熊本でアレンジされ、ご当地グルメになった。ちゃんぽんの麺をはるさめに変え、揚げた茹で玉子が入っているのが特徴だ。

野菜たっぷり、女性ファンも多い太平燕

 市内の老舗中華料理店、紅蘭亭の郡司俊さんは教えてくれた。

 「平日で400人、休日には600人のお客さんがいらっしゃいます。だいたい100人は県外の方ですね。これを食べたくてやってきたとみなさんスマホで写真を撮りながら召し上がっています」

中国名菜 紅蘭亭
熊本市中央区安政町5-26

 次は熊本ラーメン。豚骨スープで、焦がしにんにくが入っているのが特徴だ。

 黒亭は人気店で、創業60年を誇る。生玉子の黄身がふたつと分厚いチャーシューが入った玉子入りラーメンで知られる。

黄身がまばゆい、玉子入りラーメン

 本店店長の正野和哉さんは「県外の方、多いですよ」と言う。

 「一日に300杯から500杯は出ます。お客さまの半分は県外の方で、観光でいらっしゃった方から、おいしかったと言われるのはとても嬉しい。私どものラーメンを食べるために来たと言われると、熊本の復興に役立っていると感じます」

熊本ラーメン専門店 黒亭本店
熊本市西区二本木2-1-23

 ここには太平燕と熊本ラーメンをあげたが、観光資源としての食には流行り廃りがある。ご当地グルメの開発、そして、そのうちのいずれの商品を押し出すかについては、片島さんのような食のブランディングをしている人の冷静な意見が必要だろう。熊本の食を観光の目玉と考えるのならば、おかみさんクリエイターに登場してもらわなくてはならない。

絶品「馬刺し」も名物
訪ねたお店は五郎八。「いろは」と読みます。
熊本県熊本市中央区水前寺公園4-21

熊本ルネサンスを

 地方活性化にはさまざまなプランがある。もっとも多用されているのはハコモノの建設だ。予算が大きいから、一見、地元は潤う。しかし、長続きはしない。それよりも、人を集めることだ。人と人がふれあい、集まりさえすれば文化が生まれてくる。

 クアトロチェント(14世紀)のフィレンツェには多様性ある人々が集まってきた。そして、文芸復興(ルネサンス)と呼ばれる多彩な文化、芸術が生まれた。

 熊本の復興はまだ終わっていない。しかし、おかみさんクリエイターと地元ならではの食はいままさに県外からの人々を集めている。

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