「地方のソムリエ」として
三番目のおかみさんクリエイターは米野真理子さんだ。日本ソムリエ協会の理事で、20年のキャリアを誇る現役ソムリエで、ワインスクールの主宰者である。彼女は1996年に資格を取ったのだが、当時、熊本にソムリエは男女合わせて8人しかいなかった。いずれもホテルのフランス料理店勤務の人で、米野さんのように町のレストランの相談に乗ったり、ソムリエ志望の人々に指導する人はいなかった。

米野さんは「今、こんなことをしています」と語る。
「現在、熊本だけで日本ソムリエ協会会員のソムリエは57人に、会員全体では130人に増えました。ピエスコート(ワインスクール)にやってくる方は地元の方だけではありません。他県の方もずいぶんいらっしゃいます。
そして、私が教えているのはフランス、イタリア、新大陸のワインだけではありません。熊本産のワイン、日本酒についても紹介しています。熊本産のワイン、日本酒を広める仕事もしているんです。いや、むしろ、そっちの方に力を入れているかな」
米野さんに、ソムリエは地域の活性化に一役買っているかと訊ねてみた。答えは非常に明快なものだった。
「ソムリエは想像力とホスピタリティ―の仕事です。お客さまのシチュエーション、懐具合を想像して、ワインを選び、そして、幸せになってもらう。高圧的に『これを飲め』という仕事ではありません。ソムリエの本質はお客さまを迎えるサービス業。熊本にやってくる方に対してのおもてなしを担当しているわけですから、地域の活性化に結び付く仕事です」

彼女は「でも、地方のソムリエに弱点はあります」とも言う。
「東京にいれば競い合う仲間が大勢いるから刺激を受けます。また、高級ワイン、世界各国のワインを飲む機会も多いでしょう。地方ではなかなか高級ワインを飲む機会はありませんから。
でも、その代わり、国産ワインの産地は近い。地方のソムリエはいつでも国産ワインの畑を見に行くことができるし、また日本酒の蔵だって見学することができます。そして、両方を通じて地元の食文化に詳しくなることができる。

県外からいらっしゃった方にただワインを注ぐだけではなく、『地元のワイナリーをご案内しましょうか』と言えるくらいのホスピタリティを持つべきだと思います。そうすれば地方のソムリエのオリジナリティが持てます」
彼女は単にソムリエという仕事に止まらず、地域のことを考えている。遠いところを見据えて、地元の食文化を語ることを役割と思っているのだろう。そして、食文化を広めることがおもてなしだとも理解している。

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