豚を訪ね、見て、考える

 片島荷風さんは「もりのともしび」という制作会社の主宰者であり、現役のイラストレーター、グラフィックデザイナーだ。もりのともしびが手掛けているのは熊本県内の農場、食品会社などの商品企画とパッケージデザインなどである。片島さんはデザインを通して、企業を成長させると同時に商品を県外の人々にアピールしている。

片島荷風さん

 荒尾市に生まれた彼女は高校を出た後、熊本の「BIGI」に入社。ハウスマヌカンをやった。その後、デザインの仕事に転じ、現在は夫とふたりで会社を運営している。

 彼女の仕事の特徴はクライアントに対する徹底的なインタビューと相談だろう。

 「地方のクリエイターの特徴かもしれませんけれど、クライアントとの距離が近いんです。商品開発の仕事をしながらも、子育ての悩み、元カノの話なんかも聞いてしまう。あまりに深刻なことだと疲れてしまうのですけれど、距離が近い分、私はクライアントの立場、心情に共鳴することができます。クライアントに成り代わって、商品を考え、デザインしています。

 たとえば高森農場さんという畜産業のクライアントがいます。単に説明を聞くだけでは満足できずに、すぐに現場に行ってしまう。豚を見て、豚の成育を見ながらハムのパッケージを考える。高森さんに成り代わって豚を見ています。

 私は食品や農業に関する仕事が多いのですが、いま、若手の農業経営者と話していると、まるで息子のように思ってしまいます」

地元の商品の良さを引き出し、デザインに生かす

 小山さんが言う、「熊本のおかみさんクリエイター」のイメージそのままなのが彼女だろう。誰に対しても親切で、のめり込んでしまう。確かに、彼女には何か相談したくなるところがある。

仕事場は古民家

 彼女のようにクライアントと親密になることができれば、たとえ東京から売れっ子デザイナーがやってきても、まず負けることはないのではないか。

 では、地方のクリエイターならではの問題はあるのだろうか。

 「あります。成果がはっきりしたモノにならないとお金を払ってもらえないこと。プランニング費、ブランディング費を払う習慣はまだ根づいていないと思います。だからといって私は手を抜くことはしません。とことん考え抜いて、クライアントが『片島さん、僕が欲しかったのはこれだよ』というパッケージをデザインしたいんです」

 そして、「付け加えることがあります」と彼女は言った。

 「くまモンの成功は熊本のクリエイターにとって、追い風になりました。くまモンが県内の人、県外の人に認められたことで、ブランディングの重要性がわかりましたから」

福岡で熊本産品の「あるしこ市」を開催。「あるしこ」とは方言で「あるだけ全部」の意(写真:木下幸二)

 彼女の仕事を見ているとよくわかる。彼女のデザインは商品の本質を考えた人でなければできない造形となっている。