熊本の会社がなぜ静岡?

 大島夕子さんは熊本市にあるカラーズプランニングという企画・制作会社に勤めるクリエイターだ。地元で生まれ育ち、元々は映像・イベント・プランニング関係の仕事をしていたのだが、30歳になるのを機に、いまの職場に転職した。

大島夕子さん

 カラーズプランニングは自治体や民間企業の仕事を請け負っているが、そのなかでも特に熊本の活性化につながっているのはFDAという航空会社の機内誌の仕事だろう。なぜなら、FDAの本社は静岡県清水市だ。エアラインの機内誌の仕事と言えばたいてい、東京のプロダクションが請け負う。ところが、FDAはカラーズプランニングのクリエイティビティを信じて、地元から遠く離れた熊本の会社に発注したのである。

大島さんが手がけるFDAの機内誌

 FDAの正式名称はフジドリームエアラインズ。地方と地方を結ぶエアラインで、保有しているのは11機。年間の搭乗者数は約123万人である。本拠とする空港は名古屋(小牧)空港と静岡空港で、羽田に乗り入れていないにもかかわらず、黒字経営となっている。

 それにしても、なぜ、静岡のエアラインの機内誌を熊本の制作会社が編集・制作しているのか。

 大島さんは言う。

 「取材先で『えっ、熊本の会社が作っているんですか?』って、よく聞かれます。

 実は元々うちの会社は、宮崎に本社があるスカイネットアジア航空(現ソラシドエア)の機内誌を作っていたのです。ところが同社が経営不振となって、機内誌も一旦廃止されました。すると、スカイネットアジアと取引があった商社の方が、今度、新しい航空会社ができるからと、FDAさんを紹介してくださったんです」

 カラーズプランニングの代表、山本聡さんが清水市の本社を訪ねて、それまで手掛けてきた熊本のタウン誌、スカイネットアジア航空の機内誌を見せたところ、話はすぐに決まった。以来、8年間、カラーズプランニングは機内誌「DREAM3776」を編集・制作している。

 「私たちは現場に飛んで行って徹底的に取材をすることにしています」

「一度、熊本で打ち合わせを」

 確かに、「DREAM3776」を見ると、写真の枚数が多く、情報量も飛びぬけている。JAL、ANAの機内誌が旅のエッセー、旅行記を主としているのに比べ、FDA機内誌は実用志向であり、旅に携行して楽しむマガジンになっている。

現場を大事に、実用志向の内容に

 「うちの会社には旅行事業部もあります。機内誌で特集した内容をそのままツアーにして、私自身が添乗することもあります。読者と直接ふれあうことができ、反応をリアルに見て声も聞けるので、機内誌の作り手として、とても勉強になります。

 地方のクリエイターはひとりで何役もこなさなければなりません。私は企画・編集作業だけではなく、取材をして記事も書きますし、写真も撮る。そして、ツアーを企画して添乗もやります」

 カラーズプランニングが仕事を依頼しているのは熊本在住のライター、カメラマンだけではない。東京のクリエイターに仕事を頼むこともある。その時、大島さんたちは言う。

 「一度、熊本で打ち合わせしませんか」

 そうして、交通費、宿泊費を負担して、熊本を体験してもらうのだという。

 東京のクリエイターにとっては熊本体験が楽しみで仕事を受ける人もいるらしい。

 「えっ、そうですか。そんなに変ですか。でも、熊本に来てもらって、いいところを知ってほしいんです。熊本のおいしいものを食べてほしい。私たちは熊本が活性化することを願っています。そのためには熊本も見てもらいたい」

 大島さんたちは、正々堂々とプレゼンして他県の民間企業の仕事をしている。同時に、自分たちの仕事が熊本のためになっていることも熟知している。FDAが地方と地方を結ぶエアラインであるとすれば、大島さんは地方と地方を結び、活性化させるクリエイターだ。