銀行は構造不況業種だから―。邦銀関係者が自虐的に語るようになって久しいが口調は案外明るかった。安定した利益を稼ぎ出してきたからである。だが、その明るさは2017年に消え、メガバンク3行は揃って大幅なコスト削減策を打ち出した。

 それでは2018年の邦銀はどうなるのか。結論を急ぐと、過去に類例を見なかった局面に足を踏み入れることになる。伝統的な発想からすると両立しない、コスト削減と顧客サービスの質的向上という二つのハードルを飛び越えることを邦銀は迫られる。これは第2次大戦後、邦銀に突きつけられた最大級の難問と言える。

 多くの邦銀が過去やってきたのは「コスト削減イコール顧客サービスの質的低下」という、いわば小学生が学ぶ算数のレベルの取り組みだった。それで済んできたのは単に顧客が羊のように大人しかったからである。ところが今、顧客は変わり始めている。

顧客に貢献できないなら去りなさいという最後通牒

 顧客の目を覚ました最大級の功労者は金融分野の監督官庁、金融庁だろう。ここ数年、金融庁は「金融改革」の名の下に様々な刺激的施策を打ち出してきた。中でも厳しく迫ったのが「顧客本位の業務運営」の徹底であり、この考え方は銀行を飛び越え、顧客層にまで伝播した。

 その上、わが国にも遅ればせながら、「Bank to Banking」の波が押し寄せてきた。非銀行業による銀行ビジネスのことで、サービス品質に敏感な利用者の間で鞍替えが着々と広がっている。

 そうした中、金融庁が2017年11月10日に公表した新たな金融行政方針に次の一節が記された。「地域の企業・経済に貢献していない金融機関の退出は市場メカニズムの発揮と考えられる」。顧客に貢献できないなら去りなさいという最後通牒と言っても過言ではない。

 日銀によるマイナス金利政策の長期化は必至の情勢であり、多くの邦銀で国内総資金利ざやがマイナスになる、稼げない時代になった。正真正銘の不況業種入りである。そこでメガバンクがコスト削減を打ち出したのだが、実はほとんど報じられていない別の理由もある。

外国人株主によるプレッシャー

 前述した金融庁の金融行政方針に記されたものよりも、はるかに厳しい市場メカニズムがメガバンクに働き出したことだ。外国人株主によるプレッシャーである。2017年秋の衆議院選挙以降、日本の株式市場では上昇トレンドが明確になったが、その中で銀行株は完全に置いてきぼりを食った。

 なぜか。「収益力の低下が歴然としている」(米系投資銀行)からであり、海外の機関投資家からのコスト削減圧力が一挙に強まった。

 それだけではない。2018年における国際金融の焦点の一つとして、G-SIFIsに対する資本規制や米国の金融規制が相当に緩められる見通しにあることも無視できない。G-SIFIsはグローバルなシステム上、重要な金融機関を指し、3メガバンクも対象である。

 これまでの資本規制強化は欧米の銀行、投資銀行が不利になる一方、邦銀は相対的に有利と言われ、実際、その恩恵に浴してきた。これが逆回転すれば邦銀の相対有利は失われる。その危険が2018年高まりかねない。

 となれば、なおさら欧米の鋭敏な機関投資家と株主は邦銀に対して、コスト削減による収益力の確保を強く求めてくる。それに応じない邦銀の株は売却され、株価はさらに低迷せざるを得ない。格付けの維持も困難になりかねず、国際業務の兵站線であるドル調達のコスト上昇も避けられなくなる。

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