熟成肉を生かした、和牛の肉料理専門店を東京・六本木などで手掛ける。様々な業態や見学イベントなどを通じ、生産者と消費者の「懸け橋」を目指す。

(日経ビジネス2017年11月20日号より転載)

(写真=村上 昭浩)
(写真=村上 昭浩)

 10月末、肌寒さを感じる岩手県一関市の牛舎では、約50頭の国産和牛が一心不乱に餌を食べていた。子牛を買い取り、成牛に育てる肥育農家の及川正一さんの牛舎に並ぶ牛は「いわて南牛」。牛の健康管理に気を配り、育成から加工まで、地域内で一貫生産された肉は、まろやかな芳香や柔らかな肉質が特徴。品評会の全国大会で最優秀賞も獲得したブランド牛である。

 いわて南牛をはじめ、畜産農家が丹精を込めて育てるブランド和牛は、今や世界に名をはせる。だが輸入肉の増加、子牛や飼料の価格高騰など、日本の畜産農家を取り巻く状況は厳しさを増す。農林水産省の統計では、牛肉の自給率(カロリーベース)は1965年の84%から、昨年は11%まで低下した。

 そんな畜産業を外食ビジネスを通じて活性化しようと奮闘するのが、2008年設立の門崎(岩手県一関市)。熟成肉ブームの火付け役となった肉料理専門店「格之進」ブランドなどを展開し、現在、岩手県や東京都などに11店舗を構える。特徴のある料理や提供の仕方は、若い世代を中心に「インスタ映え(SNSのインスタグラムに写真を載せると注目される)」する肉料理を出す店としても話題を呼んでいる。

「解体ショー」でインスタ映え

多彩な味を広める
東京・六本木の店舗では、一頭買いした和牛の「解体ショー」も実施。客はその様子を撮影し、SNSで拡散する
<span class="title-b">多彩な味を広める</span><br />東京・六本木の店舗では、一頭買いした和牛の「解体ショー」も実施。客はその様子を撮影し、SNSで拡散する

 例えば、六本木の中心部にある「格之進R」。同店では和牛の熟成肉を塊の状態で焼く、焼き肉が名物で、スタッフが来店客の前で調理した後、最も良い焼き上がりの状態で切り分けて出すのがウリ。さらに、貸し切り限定だが、「熟成肉解体ショー」というイベントも開催する。各部位の特徴を説明しながら、スタッフが牛肉を解体。来店客は肉を味わうとともに、その様子をスマートフォンで撮影し、SNSで友人らに拡散する。その結果、店は新たな肉好きの客を呼び込むことができる。

 同じく六本木にある「KABCO」では、熟成肉とカキを窯焼きで調理し、フレンチの技法を使って仕上げた料理が名物だ。ピザ窯の専門店と共同開発した窯を使い、肉の水分を閉じ込める。肉とカキというユニークな取り合わせは、味に加えて見栄えも印象的だ。

 外食店は業態の垣根を越えて顧客の囲い込み競争が激しい。門崎は特徴ある店舗運営にSNSマーケティングの考え方を組み合わせることで、固定ファンを増やすことに成功している。

 飲食店が多店舗展開する場合は、メニューや内装などを統一し、コストを抑えるのが定石だ。しかし門崎の運営する肉料理専門店は、ハンバーグ主体のカジュアルレストラン、焼き肉、フレンチと業態が様々で、客単価も1000円台から1万5000円台までと幅広い。

 特徴ある店舗展開の背景には、牛を一頭買いする、独特な仕入れ方がある。一頭丸ごと仕入れるので、希少部位は高級ラインの店で、量が多い部位は比較的安価に提供するなど、最大限に材料を効率良く活用できる。コスト管理でも利点があるこの手法は、肉を知り尽くす千葉祐士社長ならではの戦略だ。

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