「ひとりで何をしていいのか分からない」という人には、飲み食いに集中することをおススメする。会食のときは、会話に忙しく、実はそれほど真剣に料理や酒を味わっていないことが多い。ひとりで外食するときは、目の前に出てきた料理の盛り付けや彩りの美しさ、料理の温度、香り、食感、味を、五感を総動員して楽しんでほしい。
「織部の小鉢の緑とカボチャの黄色が美しいコントラストで食欲をそそるな。ん、こっちの料理の酸味は何の柑橘だろう? 苦味がいいアクセントになっているな。これに合う日本酒は何だろう?」。そんな具合に料理人が料理に込めた意図を読み取るつもりで飲み食いすれば、決して退屈などしない。
男のひとり外食にスマホは似合わない
「この料理、酸味がとても爽やかですね。これに合う日本酒をいただけますか」と料理人に話しかければ、「ありがとうございます。これ、実は沖縄のシークワーサーを使ったんですよ」なんて答えとともに、料理と酒の相性に関する興味深い話を聞けるかもしれない。
ただし、忙しく働く料理人にのべつ幕無し話しかけるのは止めたほうがいい。小さな店で、1人しかいない料理人を話相手として独占してしまう客がいるが、これは店からも他の客からも嫌われる。
お酒のお代わりを注文したいときでも、料理人が忙しそうに調理しているなら、ひと段落するまで声をかけずに待つ。その気遣いは、目端の利く料理人なら必ず気付き、「いい客 だ」と思ってくれる。店から大事にされれば、ひとり外食はさらに充実する。
最後に、退屈だからと言って、男のひとり外食にスマートフォンは似合わない。「ひとりの時間を愉しくできる者でなければ、ふたりの時間も愉しくできない」。筆者が敬愛する作家の言葉である。職場や家庭のしがらみから離れて、いささかの人恋しさを自覚しながら、自分で自分を楽しませる。それがひとり外食だ。ポケットか鞄の奥にスマホはしまっておこう。
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