中国はITも駆使して、人民の言動を監視しようと突き進む(写真:Imaginechina/アフロ)
中国はITも駆使して、人民の言動を監視しようと突き進む(写真:Imaginechina/アフロ)

 毛沢東は1937年に『矛盾論』を著した。それから80年経ったが、習近平を中心とした中国共産党は大きな矛盾を抱えつつも、“ 世界のトップ”を目指す壮大なビジョンを掲げ、強硬路線を突き進んでいる。

 大きな矛盾とは共産党独裁による共産主義の強権政治をしつつ、経済では資本主義を採用していることである。しかも実態はいわゆるカジノ資本主義(マネーゲーム)であり、一帯一路と軍事拡大で民衆の眼を外に向けようとしているものの、海外プロジェクトの多くが失速している。中国の民間企業は国外進出に意欲を示すが資金の持ち出しには厳しい締め付けがある。

経済の問題は百も承知で強権政治

 そうした実態を習近平は了解しており、だからこそ先の共産党全国代表大会で経済政策にさほど言及しなかったのだろう。同大会で習近平は後継者を明確にせず、2期目はおろか、さらに長期の体制維持を視野に入れている姿勢を見せた。だが、しばしば指摘される通り、中国経済は以下の問題を抱えている。

  • 経済成長の停滞(雇用問題や様々な社会問題、急速に迫る高齢化による働き手の減少)
  • 不動産バブル(ソフトランディングの道筋はまだ見えない)
  • 生産能力の過剰と内需不足(魅力的な中国オリジナル製品が少ない)
  • 社会全体の負債残高の膨張
  • 金融機関の不良債権

 いずれも楽観できないが、といって2018年にも不動産バブルが弾け、中国経済がクラッシュするというほど悲観的な状態とも言えない。中国共産党は矛盾と経済の諸問題を十分理解し、人民解放軍という武力をバックに政治と経済を舵取りしていこうとしている。2018年に共産党は民衆や企業活動への監視をさらに強めるだろう。共産党員の採用を外資系企業にまで義務付けるのではないかと囁かれている。

“IT先進国”となった中国、問題発言者を見つけ出す

 AI(人工知能)を使った監視カメラを路上に配備し、当局がマークする人物の顔を顔認証システムに登録、カメラとシステムによって居場所を特定し、監視している。インターネット上の監視も厳しくなっている。2017年8月、河北省の在住者が「公立病院が食堂で出すものがまずくて高い」とネットに書き込んだところ、虚偽の情報で公共秩序を乱したとして警察に拘留される事件が起きた。

 VPN(仮想プライベート通信)を使った海外サイトへのアクセスはしばしば制限される。以前は重要な国際会議の期間中だけVPNの利用が制限されていたのだが、ここへ来てVPNプロバイダーが閉鎖に追い込まれるなど、海外サイトへのアクセス断絶を狙った措置が目立っている。

 中国のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「微信(We-Chat)」 はビジネスでも使われるが、そこでのやり取りは監視されている。不適切と判断されたWe-Chat 上のチャットグループが勝手に削除されることもある。毛沢東が主導した文化大革命の時代に密告が奨励されたが、今はネット上で不都合な書き込みを見つけたらそれを当局に訴え出るWeb サイトがある。

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