GPSを代替する新しい技術

 第3のテーマは全地球測位システム(GPS)を代替する新しい技術である。SWaP-Cの要求を実現する形で、今世紀に入り最も進んだ技術の一つがGPS であったが、妨害などを受けやすく、室内や海中では機能しないという問題があった。

 このため、GPS 信号が遮断された状態でも位置情報を計算できるナビゲーションの研究が進んでいる。すでに慣性計測ユニットを持つ超小型チップやチップサイズの原子周波数標準発振器なども開発され、GPS 代替研究の波及効果は大きい。

日本に足りないもの

 筆者は現在、アジア諸国の大学に研究助成金を出す仕事を他のプログラムマネジャと一緒にしている。その活動から気付いた日本に参考になる点を述べておきたい。

 多くの先進国に共通する悩みは、急速な技術発展に見合う研究開発費を低成長時代の中でいかに確保するかである。それでも米国政府の研究開発費は10年前と比較して70パーセント増えた。一方で、日本の民間を含む研究開発費は10年間ほぼ横ばいである。

 もっと深刻なことは、技術の進展と共に研究領域が広まり、細分化した複雑多岐な研究の中から、将来有望と思われる技術を見出して資金源に結びつけ、長年にわたり研究を支援し、また見知らぬ研究者同士を結びつけて新しい技術を創発するための触媒的な役割を果たす人材の不足である。

 この点について米国政府はマルチファンディング方式とプログラムマネジャ制度で対処している。米国の研究開発予算の約5割を国防総省関連が占めると述べたが、それ以外に保健福祉省、エネルギー省、航空宇宙局(NASA)、国立科学財団など14の機関が独自の政策の下で研究を進めている。

 こうすることで研究の動向を多角的に把握し、相互に補完し合いながら、広範囲で多義にわたる研究を支援できる。

 各機関に多数のプログラムマネジャがおり、大学や政府機関、民間の研究者達と直接会って議論を重ね、面白く意義があると判断した研究テーマにほぼ独自の判断で投資する権限が与えられている。

 プログラムマネジャは研究実績の豊富な人が務めることが多いが、その任務にある間は研究そのものをすることはない。プログラムマネジャには、将来性のある研究領域やテーマを見出し、研究課題を作り上げ、研究目的の明確化、成功時のインパクト、リスクとコスト、評価方法などを、専門用語に頼らずにうまくまとめる力が求められる。

 別組織に属するプログラムマネジャと研究プロジェクトを担う研究リーダーの両輪がうまく機能するとき、大きな研究成果が期待できる。一流の選手が育つ陰にコーチの力が大きいのと同じである。私見だが日本の問題は優れた科学的知見を持つ“ 研究のソムリエ”の不在である。

(本記事は『2018世界はこうなる The World in 2018 (⽇経BPムック)』からの転載です)

生天目 章(なまため・あきら)氏

防衛大学校名誉教授。1973年、防衛大学校理工学専攻応用物理学科卒業、航空自衛隊へ。1977年、スタンフォード大学大学院オペレーションズリサーチ修士課程修了。1979年、同大学院博士課程修了(Ph.D)。1979年から航空自衛隊で研究開発業務に従事。1986年から防衛大学校に移り、ニューラルネットワーク、マルチエージェント、複雑ネットワーク、ゲーム理論などの研究に取り組む。1996年防衛大学教授。2016年退官し、同年から米空軍研究所科学技術局(アジア事務所)科学顧問。

英The Economistの別冊「The World in 2018」日本版の独占翻訳権を日経BP社が獲得、「2018 世界はこうなる」として発行。40カ国で毎年発行される「The World in」は信頼性のある世界予測として高い評価を得ている。朝鮮半島や中国などアジア情勢、テクノロジーがビジネスやファイナンスに与える影響、といった記事を収録。