
将来を見据えた基礎研究やハイリスク・ハイリターン技術の研究は国が主導して牽引されてきたが、IT (情報技術)や自動車産業の研究開発投資額はここ2年で倍増している。
「SWaP-C(Size, Weight, Power, Cost:小さく、軽く、パワーがあり、安い) 」と称される要求の下、様々な分野で研究開発が活発になっているが、とりわけ「ゲームチェンジングテクノロジー」(ゲームを変える技術)の動向に注意を払う必要がある。私たちの生活様式、コミュニケーションの取り方、働き方、世界市場ひいては国家間の支配勢力図を激変させる革新的な技術のことだ。
2018年以降、ゲームを変える技術は何かを見極め、技術の変革に見合う経営のあり方を検討し、イノベーションを加速することがますます重要になっていく。ゲームを変える技術を見誤ると、市場から退場させられる危険がある。
ただし、ゲームチェンジングテクノロジーを予測し、それを見定めて研究を誘導することは難しい。研究開発のプロセスは基礎研究、応用研究、開発に区分されるが、新しい技術が生まれるプロセスは複雑で、開発から応用や基礎研究に戻ったり、研究途中に予想もしなかった事態に対処したりする中で、偶然に新しい技術が生まれるからだ。それでも全体を俯瞰して有力と思われるテーマを追うことはできる。
本稿では軍事領域、特に米国の研究を展望し、2018年以降、注目すべき分野を挙げてみたい。これまで軍事領域から様々なゲームチェンジングテクノロジーが生まれ、世界の研究開発を牽引してきた経緯がある。
米国における科学技術政策の最優先事項は軍事的優位性の確保であり、国防総省の最優先事項は技術的優位性の確保である。米国政府の研究開発予算は約1400億ドル(約15兆円)、その半分を国防総省が担っている。国防総省(陸海空軍、海兵隊)が取り組んでいる重点研究領域はインターネットで公開されており、その中から今後重要だと私が考える3テーマを紹介する。
ゲームを変える3つのテーマ
第1はオートノミー(autonomy:自律)である。何らかの仕組みを自律的に動かす機能を指し、そこに組み込まれるアーキテクチャやアルゴリズム、センサーを通した環境との相互作用、操作する人間とのインターフェース、人間社会を統治する様々なルールとの関係、などが含まれる。
ゲームを変える技術をこうした機能として捉える必要がある。物事には機能的な側面(こと)と共に構造的な側面(もの)がある。オートノミーという機能から、無人機、ロボット、自動運転車といった構造をイメージするわけである。
オートノミーを支えるために人間の限界や弱点を補う技術、人間の増力化を図る技術がそれぞれ進展する。人工知能(AI)は前者であり、データと知識が融合される多くの局面で人間の判断を支援する。後者の例として、無人機を遠隔操作するオペレータ(パイロットに相当する)などの状態を把握し、状態に応じて脳に微量の磁気や電波を流す経頭蓋磁気刺激の研究がある。
アナログ技術の復権
第2のテーマはアナログ技術の見直しである。アナログデータをデジタル化するITは進化してきたが、環境から得られるデータをすべてデジタル化することは効率が悪い。多くの消費電力を必要とし、小さなエラーが大きな障害をもたらす。それに対し、アナログ処理は低消費電力でロバスト性が高い。人間の脳の処理を模した脳型コンピュータが発展し、アナログ処理とデジタル処理を組み合わせた技術が新しい可能性を拓くだろう。
例えば、カメラを搭載したドローンに、脳型コンピュータを搭載する研究が進んでいる。ドローンと地上施設あるいはドローン同士の通信にはデジタル技術を使うが、画像はアナログ処理をすることでドローンの知的活動を大幅に広げられる。IoT など様々な機器や環境にセンサーを配置する取り組みが進んでいく際、環境に近い機器やセンサーから得られるデータに対してもアナログ処理が進んでいく。
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