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「複業」で蘇る人材は確実にいる

西村:まず、採用力が高まること。特に若い世代にとっては、複線のキャリアを積んでリスクヘッジできることは魅力に映ります。同時に離職リスクも減らせます。しかも、このメリットは解禁が早いほど他企業との差別化となって、メリットを享受できる。売り手優位の労働市場において、複業解禁の会社は人材確保の面で一歩抜きん出ることができます。

田中:「自己変芸型キャリア=プロティアン・キャリア」は個人の自己成長だけでなく、組織の成長にもつながるはずです。

 例えば一つの組織の中では生かせる場が限られ滞留している人材が、ほかの組織で強みを伸ばす機会を得たら、もう一度成長できるかもしれない。あるいは自分の居場所をもう一度価値付けできるかもしれない。「複業」は個人にも企業にとってもメリットが多そうです。

 あえて突っ込むとすると、「複業」のデメリットは何でしょう。

西村:デメリットというより、優先順位を誤ると本業にも支障を来たすリスクはあると思います。

 「複業」はあくまで自己実現の手段なので、本業で十分に自己実現できているならば、「複業」をする必要はありません。「複業」そのものが主目的になると、本業を圧迫して本末転倒になってしまいますから。

 「複業」にどれくらいの時間と労力を費やすのかというバランスも、本業の状況次第で緩急をつけたほうがいい。

 僕自身の経験で言うと、会社員時代、「複業」で得た経験がきっかけとなって、本業で希望の部署に異動できた直後は、半年くらいピタリと「複業」を止めて、120%本業に振り切りました。

 繰り返しになりますが、「複業を始める理由=why」を見失わないことが大切だと思います。

田中:状況に応じてポートフォリオを変えていく、と。キャリアのセーフティネットとして「複業」は効くのですね。ちなみに、「複業」は若い世代こそ始めるべきものなのでしょうか。話を聞けば聞くほど、管理職世代も強く意識すべきキャリアの視点のような気がします。

西村:働く期間が延長化されていくこれからの時代では、世代を問わず、自分のキャリアを主体的に切り開く意識が欠かせなくなると思います。

田中:そうですよね。管理職も、自己変芸型キャリアのロールモデルになっていく気持ちになったほうがいい。

 これからテクノロジーがますます進化する中で、今、持っている知識と経験だけで生き残ろうとする上司には、部下もついていかないでしょう。管理職も変わることを恐れず、果敢に挑戦して、部下と一緒にプロティアン・キャリアを歩んでいくほうが、キャリアの長期的安定につながるはずです。

西村:プロティアン・キャリアを切り開く手段となる「複業」は、いわば“時間とスキルの投資運用”です。このうち時間は若い世代ほど豊富に持っていますが、スキルは40代以降の経験豊富な層のほうが持っている。

 自分が保有しているスキルを棚卸しして、「本当にやりたいことは何だっけ」と自分自身に問い直してみる。これまで積み上げた経験の中で、「これからも極めていきたい」と意思が宿るものを見定めて、「複業」として少しずつ始めておくと、定年後のセカンドキャリアの準備にもなります。

 逆に、これをやっておかないと定年後に再就職の必要が生じた時、慌てて求人広告を見て、不得意な仕事をイチから始めるようなことになってしまいます。

 田中先生がおっしゃるように、部下からの信望という意味でも、会社から言われたことをやるだけの上司と、自己成長のために変化し続けようとする上司と、どちらが魅力的かは明白です。

 実際、僕が企業研修に行った先で最も熱心に話を聞いてくださるのが、40代以上の年齢層なんです。