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自分のキャリアの棚卸し、できていますか?

田中:ホール氏が2002年に書いた本のタイトルが象徴的で『Careers In and Out of organizations』。「organizations」、つまり複数の組織を、「In and Out」、出たり入ったりしながら積み重ねるキャリアという提唱です。キャリア論の大家として知られるエドガー・シャイン氏の弟子である彼の集大成的な理論が複線型キャリアであるというところが、注目に値すると思うんです。

 西村さんの言葉を借りれば「want(したい)」を「can(できる)」に変えていくための試行錯誤を、複数の組織でやっていきなさい、とホール氏も言っています。

 しかし単線型のキャリアで複数の組織を経験するには時間がかかりすぎる。複線型のキャリアなら、それを効率的に実現できるというわけです。ただ実際のところ、日本の労働市場における「複業」の浸透度というのはどれくらいなのでしょうか。

西村:転職エージェントのエン・ジャパンが3000人の会社員に聞いた調査によると、88%の人が「副業(複業)をやってみたい」と答えています。これはハッキリ言って、多すぎるくらいです。おそらく、副収入目的の人もかなり含まれるのではないでしょうか。

 ただ長続きするのは、自己実現であり、他者貢献になる「複業」です。単に時間を費やして副収入を得ようとするだけでは、本業がおろそかになる場合もあるので、そういう人には勧めないことも多いんです。そんなに甘くないですよ、と。

田中:「複業」を成功させるためのポイントは何だと思いますか。

西村:自分の市場価値を高めるだけの「why」が明確に言えるかどうかだと思います。

 市場価値を高めるためには、まずマーケット(Market)のニーズを知らなければなりません。そしてマネタイズ(Monetize)するためのビジネスモデルも勉強する必要がある。加えて、研究が不可欠なのが自分自身(Myself)。この“3つのM”を分析することが重要だと教えています。これは「複業」に限らず自己成長に欠かせない視点ですよね。

田中:特に最後におっしゃった「Myselfの分析」というのは、うまくできていない人が多いかもしれませんね。

西村:日本では自分のキャリアを棚卸しする習慣がほとんどないので、そうかもしれません。「課長」や「部長」といった肩書きでしか、自分のキャリアを語れない人がほとんどではないでしょうか。

田中:それは組織内の職位であって、何ができるのかを説明する用語ではありませんからね。キャリアが資産として積み上がっていかないのはもったいないですね。

(後編に続く)