福島の影

 今回の仮処分の背景には、福島事故が収束していないことがある。大津地裁の山本善彦裁判長は、「福島の事故の大きさに真摯に向き合って同じような事故を防ぐためには、原因の究明を徹底的に行うことが不可欠だが、この点についての会社の説明は不十分だ。もし会社などが原因究明を重視しないという姿勢であれば非常に不安を覚える」と指摘した。

 さらに、「福島の原発事故を踏まえた事故対策や津波対策、避難計画についても疑問が残る。住民の生命や財産が脅かされるおそれが高いにもかかわらず、関西電力は安全性の確保について説明を尽くしていない」とした。

 福島では、もう一つ大きな問題が発生(というより発覚)している。東京電力による隠蔽が疑われる事案だ。東電は事故直後から2カ月後の2011年5月まで、炉心の状態について、メルトダウン(炉心溶融)ほど深刻ではなく、燃料が傷ついた状態を指す「炉心損傷」である、と発表し続けた。

 その理由として、「炉心溶融と判定する根拠となるマニュアルがなかった」などと説明していたのだ。ところが、東電は、事件からほぼ5年経った2016年2月24日、当時の事故判定マニュアルを「発見した」と発表した。

 そのマニュアルには「炉心損傷の割合が5%を超えていれば、炉心溶融と判定する」という明確な記述があるので、本来なら事故から数日後にはメルトダウンが起きたことを発表できていたはずだ。「マニュアルの存在に気づかなかった」という主張に説得力はない。

 東電は、新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働を目指しているが、県は再稼働に向けた議論に入る前提として福島事故の検証を求めている。今回の東電による「マニュアル発見」について泉田裕彦知事は、メルトダウンが「隠ぺい」されたとして、背景を調査するように求めている。

 さらに、東京電力の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が、東京第五検察審査会による起訴議決に基づき、2月29日に強制起訴された。罪状は「業務上過失致死傷罪」。

 福島事故の影は日本の全原発を覆っている。「原発は必要」と考える人の間でも「福島が収束するまでは不可」という声は大きい。原発運転の差し止めを求める裁判所への申し立ては全国で相次いでおり、その動きが今後さらに活発化することは間違いない。

規制基準そのものに疑問符

 大津地裁の今回の仮処分に対し、政府は反発している。まず、菅官房長官は、「高浜原子力発電所3号機と4号機は、独立した原子力規制委員会が、専門的見地から十分時間をかけて、世界最高水準と言われる新規制基準に適合すると判断をしたものであり、政府としては、その判断を尊重して、再稼働を進める方針に変わりはない」と述べた。

 その後、安倍首相も、「高い独立性を有する原子力規制委員会が科学的・技術的に審査し、世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると判断した原発のみ・・(中略)・・ 再稼働を進めるというのが政府の一貫した方針で、この方針には変わりはない」と述べている。

 二人とも「新しい規制基準に適合した」原発であることを強調しているが、司法は、規制基準そのものに疑問を呈している。

 2015年4月の福井地裁による高浜原発に関する仮処分の時にも、当時の樋口裁判長は、「国の新しい規制基準は緩やかすぎて、原発の安全性は確保されていない」と指摘している。

 つまり、規制基準に合格しても安全性が保証されるわけではないのだ。確かに、原子力規制委員会は自らの役割について、「規制基準に適合しているかどうかだけ審査しているのであり、原発自体の安全性を担保することではない」との立場をとっている。また、田中委員長は、2014年12月17日に行われた記者会見の中で、高浜原発3、4号機の安全性について、「安全ではないとは言っていません。安全だとも言っていません」と答えている。

 このような状況のもと、原発推進者は「訴訟リスク」に対して危機感を募らせているが、その一方で、「司法が本来の役割を果たし始めた」と歓迎する声もある。その背景として、国民の多くが新基準について納得していないことを認識する必要がある。

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