池上:トランプの支持者の多くは、『ヒルビリー・エレジー』で描かれたような、グローバリズムによるアメリカの繁栄から徹底的に取り残されたラストベルト(錆び付いた工業地帯)に暮らす貧しい白人たち、ヒルビリーやレッドネックと呼ばれる人たちですね。

 ネイティブアメリカンやラテンアメリカ系、アフリカ系、アジア系の人たちのようにマイノリティとして逆に優遇措置を受けることもない。第二次産業が崩壊して、本当に行き場を失った人たちです。そんな彼らが突然、トランプのような著名な大富豪から「あなたたちのことは忘れていない、あなたたちこそがアメリカだ」と言われたらそれはぐっとくるでしょう。まさに「おらが大統領」に見えるでしょう。だから彼らは今でもトランプを大絶賛しています。

増田:たしかにトランプの支援者の多くは、民主党政権への不満、エリートへの不満を抱えた貧しい白人層。でも一方で実はエリートの中にも「トランプよ、よくぞ言ってくれた」という人たちがけっこういる。表立っては言えない本音を臆面もなく口にするトランプに憧れを抱いていたりするんです。

 トランプの支援者集会で話を聞いたハーバード大学の卒業生もそうでした。自分の家族はみな、民主党支持だから、口が裂けても共和党を支持しているとか、ましてやトランプを支持しているなんて言えない。でも、実はトランプの支援者なんだ、この隠れトランプの集会に来れば、仲間に会って、思う存分に本当は移民や難民なんて大嫌いなんだと本音を話せると。喜んでいました。

 それからトランプの支持者の中には、銃の規制に反対する人たちがかなりいます。アメリカ人にとって銃は特別な存在。トランプを支持しない人の中にも、銃の所持を規制されるのだけは嫌だという人がかなりたくさんいるんです。私も何人かにインタビューしました。日本人にとっては銃規制は当たり前ですが、9.11以降、自分の身を自分で守って何が悪いんだという空気がかなり高まっていると感じます。だから、トランプさんを全面的に支持するわけではないけれど、この一点で共和党を支持するからトランプを支持するという人も多かったですね。

既存の政治そのものへの不満

池上:フランスでもアメリカでも、今起きている政治の変化は、民主党系と共和党系、革新と保守という政治的な対立軸そのものが崩壊したことで生まれました。従来の二項対立の視点で見ると、一国主義を「右傾化」と見なしがちだけれど、正確には違う。一国主義は、これまでの二項対立の政治構造そのものへの不満から生まれている部分があります。

 アメリカでは、ヒラリー・クリントンは既成政治家の象徴でした。それに対抗していたのが、トランプであり、バーニー・サンダースでした。フランスでも、共和党でも社会党でもなく、前進という新しいグループを作ったマクロンが選ばれた。既成の政党、体制への不満が一挙に吹き出ているのです。

増田:そうですね。フランスでも、テロばかり起きて失業率は下がらないので、社会党のオランドに対する不満は高まっていて、政権は共和党に戻そうという風潮も生まれていました。ところが、有力な対抗馬となるはずの共和党のフランソワ・フィヨン候補が支援者から高額のスーツを受け取っていたなど、お金のスキャンダルが出てきました。

池上:たしか1着165万円のスーツでしたね。どうしたらそんな高いスーツが作れるんでしょう(笑)