池上:でも、増田さんが集めてきた生の声はちょっと違っていた。フランス人を含めヨーロッパの人たちにとって、EUにいたるヨーロッパ共同体のおかげでヨーロッパは戦争がなくなった、という意識が前提にある。2012年にEUがノーベル平和賞を受賞したときになぜなのかと思ったのですが、納得できました。

 かつてヨーロッパは常にどこかで戦争や紛争が起きていた。第二次世界大戦後、1952年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が発足し、それが67年に欧州諸共同体(EC)に発展し、80年代の東欧の崩壊を経て、92年にEUが発足しました。ヨーロッパ域内では戦争がずっと起こらずにすんできた。EUはヨーロッパから戦争をなくす構想のもとで立ち上がり、それを成し遂げた存在だ――。そんな風にヨーロッパの人々は思っているのだ、と、基本に立ち返らされたような感じがしています。

増田:EUに対する同じ思いは、フランス人だけではなくドイツ人たちも強く持っていると思います。あの国は、もう絶対に戦争はいけないと思っている国ですから。ただ、現在のEUでは、ドイツ一国が圧倒的に強いというイメージがあります。だからこそ、マクロン大統領は、EUの中でフランスの存在感をより高めていく政策を打ち出したのでしょう。もちろん、いまだにフランスにはドイツが大嫌いという人もたくさんいます。歴史的な経緯を考えるとしょうがないのですが。

池上:その代表が、ドイツ脅威論を唱える学者のエマニュエル・トッドでしょうね。

増田:一方で、ドイツ人と結婚しているフランス人も多いんです。イギリスはEU離脱を決めましたが、他国の人と結婚したイギリス人は、今後どうするのか。かなり悩んでいるはずです。

これまでの話で、ヨーロッパで起きているいくつかの政治的な動きは「右傾化」ではなく「一国主義」であり、しかもフランスを見る限り、必ずしも一枚岩ではない。一方、やはり「一国主義」を打ち出したトランプ政権下のアメリカがあります。ヨーロッパとアメリカで起きている政治的変化の共通点と異なる点、どう見ていますか?

作用・反作用が素早く起こるアメリカ

池上:ヨーロッパでもアメリカでも共通しているのは、グローバリズムと一国主義の作用・反作用の繰り返しです。ヨーロッパでもアメリカでも、経済面で徹底的なグローバリゼーションが進み、ヨーロッパに関しては域内の経済がひとつになりました。その反作用として、イギリスはEU離脱というアンチグローバリズムを選びました。

 アメリカでのトランプ現象も、グローバリズムという作用に対する反作用と見ることができます。ITや金融の分野で徹底的なグローバリズムを推し進めたアメリカ経済。その結果、国内で大きな格差が生まれ、グローバル化に乗り遅れた人たちの不満が募りました。結果、トランプが予想以上の票を集めたわけです。

 一方、その後のイギリスの政治的な混乱やトランプ政権の迷走ぶりをみて、ちょっと待てよ、という機運が再び生まれました。その結果が、オーストリア、オランダ、そしてフランスで起き、一国主義への傾倒を踏みとどまる選挙結果が出ました。

 アメリカ国内でも、トランプの一国主義に対する反作用が起き始めています。6月、トランプは、温暖化対策の世界的な枠組みを定めた「パリ協定」を離脱すると宣言しましたが、カリフォルニア州やワシントン州など複数の州が「独自に温暖化対策に取り組む」と即座に表明しました。また1月にトランプは、イラク、シリア、イラン、スーダン、リビア、ソマリア、イエメンのイスラム圏7カ国からの入国を一時的に完全に禁止すると宣言しましたが、シアトルの連邦地方裁判所は、この特定7カ国からの入国制限に対して、一時的差し止めを命じました。

 たとえ大統領の命令といえども、理不尽だと判断したらすぐにその反作用が起きる。それがアメリカという国です。

そもそも、なぜアメリカでトランプが人気を勝ち取るような一国主義という反作用が起きたのでしょうか?アメリカ中部の貧しい白人たちの世界を描いた『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社)などを読むと、その空気をうかがい知ることができるような気もします……。