そういえば、トランプ大統領も、難民は5万人まで受け入れると言っていますね。

池上:バラク・オバマ前大統領が主張していた「難民10万人受け入れ」なんてとんでもない!と、トランプ大統領は「難民は5万人まで」と目標数値を削減しました。では、日本は?  27人とか28人です。となると、トランプ大統領よりいまの日本のほうがはるかに「右翼」ということになってしまう。逆に言えば、日本を基準とすると、今度は、フランスの国民戦線もアメリカのトランプ大統領も「リベラル」あるいは「左翼」ということになりますね。それもおかしいでしょう。だから、政治の右左でいまの国際政治を語ってしまうのはミスリードを招いてしまう。

増田ユリヤ(ますだ・ゆりや)1964年、神奈川県生まれ。國學院大學卒業。27年にわたり、高校で世界史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのコメンテーターを務めた。日本テレビ「世界一受けたい授業」に社会の先生として出演のほか、現在レギュラーコメンテーターとしてテレビ朝日系列「グッド! モーニング」などで活躍。日本と世界のさまざまな問題の現場を幅広く取材・執筆している。著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『移民社会フランスで生きる子どもたち』(岩波書店)、『揺れる移民大国フランス』(ポプラ新書)などがある。池上彰氏とテレビ朝日「ワイド! スクランブル」のニュース解説コーナーを担当している

増田:私自身、フランスで現地取材をするまでは、人権に重きをおくフランスでも、国益だけを考え、難民など自分たちと異質な民族を排除したい人たちが増えて、「右傾化」してしまっているのか、と半信半疑でいました。

 でも、池上さんが解説してくださったように、必ずしも「右傾化」ではないんですね。そもそも、いまでもフランスでは、他者を排斥するのはとんでもないという意識が根強いことがわかりました。歴史を見ても、フランスは移民で成り立っている国ですし、現時点でもその自覚を強く持っています。

 国際結婚も当たり前。EU圏内のさまざまな国の人たちと結婚し、子供を生んでいる。ルペンさんの主張通りに、EUから離脱したら、各国を行き来するのにまたパスポートが必要になる。通貨も変えなくてはならなくなる。私が取材したフランス人たちの意見の多くは、そんな面倒をいまさら選ぶことは考えにくい、というものでした。

マクロンを支援する女性たちは「戦争」を意識している

池上:その点で言うと、やはりイギリスは日本と同じで島国だよね。大陸から人に来てほしくないといが気持ちが相対的に強い。

増田:EU離脱を表明したイギリスが閉ざしていることも、フランスの難民問題が解決しない大きな原因のひとつですね。

池上:今回の本では、増田さんがフランスで現地取材を行いました。その成果を聞いて、私が一番「なるほどな」と思ったのは、マクロンを支援する女性の集会の話です。

増田:パリ14区のカフェで開かれた集会ですね。私は最初、彼女たちがEUからの離脱に反対するのは経済的な不安があるからだろうと思っていたのですが、彼女たちの口から次々に聞かれたのは「戦争のこと」でした。

 彼女たちいわく、「私たちの代も、私たちの親の代も戦争をしていないのに、子どもや孫の代で戦争が起こったら困る。だからEUには加盟し続けたい。それをはっきり主張しているのは、大統領候補の中でマクロンさんだけだから、彼を支持する」と。

池上:その話を聞く前は、私も「日経ビジネス」風に、経済的な理由で彼女たちのようなマクロン支持なのかと思っていました。EUに加盟している限り、関税がなく、人の行き来が自由で、経済面から考えるとやはり有利、と判断しているのかと。