「右傾化」という言葉は使いたくなかった!

池上彰さん、増田ユリヤさん、お二人の共著による新刊のタイトルは、『なぜ、世界は“右傾化”するのか?』。右傾化という言葉を「“”」でくくったのはなぜですか。

池上:それはですね、出版社が「右傾化」というキーワードをタイトルに使いたい、と言ったからです(笑)。

増田:私たちは抵抗したんです、使いたくないって。

池上:いま、世界で起きていることは、「右傾化」ではありません。なので、タイトルに「右傾化」と入れることについては、「違うんじゃないですか」と申し上げました。で、最終的に、「右傾化」という言葉を「“”」でくくる、ということです。

イギリスのEU離脱=Brexit、アメリカのドナルド・トランプ大統領の誕生、フランス大統領選での極右政党国民戦線のマリーヌ・ルペン氏の人気と、エマニュエル・マクロン大統領の誕生。ポーランドで保守政党「法と正義」政権の樹立。本書で取り上げられている各国の一連の政治的変化を、日本のメディアの多くは「右傾化」と表現しています。でも、これは「右傾化」ではない、と。

「右傾化」と定義すると変化の意味が見えなくなる

池上 彰(いけがみ・あきら) 1950年、長野県生まれ。1973年から2005年までNHKに記者として勤務。2005年からフリーランスのジャーナリスト。2012年から東京工業大学教授に。2016年、東工大を定年退職し、名城大学教授に。東工大でも特命教授として引き続き講義を受け持つ。今年度は計7つの大学で教壇に立つ。(写真:陶山 勉、以下同)

池上:ないです。「右傾化」と言ってしまうと逆にいまの変化の意味が見えなくなる。各国の政治の変化に共通するのは、右傾化ではなく、自分の国さえ良ければいいという一国主義です。移民や難民など、自国民と異質な存在を受け入れたくないという思いです。

 昨年末、米国でトランプ大統領が誕生したとき、彼が標榜した「America first」の一国主義は、このあとヨーロッパにも広がっていくのではと予測して、この本を作ることに決めました。このため、本書には、この5月のフランス大統領選の結果まで入っています。ぎりぎりでしたね。

増田:ルーブルで行われたマクロンさんの勝利宣言を聞いてから原稿を書いて送りました。マクロンさんの勢いは、向こうで取材を始めた3月の時点で感じていました。極右のマリーヌ・ルペンさんは地方では健闘していましたがパリではまったく人気がなく、「ルペンだけはイヤ。でも誰を選んだらいいか迷っている。「この人だ!」と思える候補がいない」という声も多かったですね。

池上:なぜ、いま各国で起きていることが「右傾化」ではないのか。日本では「極右」と報じられている、ルペンが率いる国民戦線の主張のひとつは、「移民は1万人まで受け入れる」というものです。

 日本はどうですか。移民はそもそも正式には受け入れていない。難民の受け入れは、2015年が27人。2016年が28人です。

 ルペンの国民戦線は、「フランス人から生まれた子どもは自動的にフランス国籍を得られるように制度を変える」と主張しています。これ、いまの日本がとっている国籍制度ですね。これまでのフランスの国籍の制度は、フランス国内で生まれたら、親がどの国の出身者であろうと誰もがフランス国籍を得られる、というものでした。

 日本では、日本人から生まれた子でないと自動的に日本国籍を得ることができません。つまり、国民戦線が理想とする国籍制度は今の日本なんです。そしてルペンは「移民は1万人まで受け入れる」と明言しています。

 ルペンの国民戦線を極右政党と呼ぶならば、そもそも移民を認めておらず、難民も数えるほどしか受け入れておらず、日本人の子供しか日本国籍を認めていない、いまの日本はもっともっと「極右の国」ということになりますね。さすがに違うでしょう。だから世界で起きている政治の流れは「右傾化」という視点ではくくれないんです。