増田:けれども、子供たちが大人になる頃には、あるいはさらに孫の世代が大人になる頃には、環境が一変しました。工場が自動化されたり、海外移転したりして、仕事そのものが激減してしまったのです。

 ここでネックとなるのが教育です。もし子供たちが十分な教育を受けていないと、仕事を探すことができません。移民である親の出身地(母国)では、子どもが学校に行って教育を受けることに対して、フランス(先進国)のような高い意識がなかったりします。つまり、自分は忙しくて仕事だけで精一杯、子どもの教育にあまり熱心でない親も少なくない。

 そうした価値観の家庭で育った子どもは、勉強熱心でなく、学校を休みがちでドロップアウトしてしまったり、高校卒業資格であるバカロレアも取れなかったり、というケースもあります。フランスは資格社会ですから、手に職がなければ安定した仕事につくのが難しい。

 移民の二世三世の中には、こうした未来が見えない若者が少なくない。ホームグロウン・テロの根っこには、移民の子供たちの教育問題が潜んでいるのです。

池上:いつの時代でも、どこの地域でも起こりうることですよね。テロリストにならなくても、定職につけなかった移民の子供たちの一部がギャングになったりするケースは、世界各国で起きています。もし、日本で移民を正式に認めるとするならば、同時にその子供たちの教育環境をちゃんと用意する必要があります。社会不安やテロなどは、最初にやってきた親の世代ではなく、むしろその国で生まれ育った子供や孫の世代が自分の未来に絶望して起こしているケースが、少なくないわけですから。

増田:若くて力が有り余っているのに勉強はできないし、仕事もない。そうなった若者たちはたいがいたむろし始めます。そこで、自分たちの不満や不安を解消してくれるような何かに引き込まれるようになったら……。

 若いときは誰もが不安を抱いていますし、一方で何かに単純に感化されやすかったり、信じ込んだりします。読者の皆さんも10代20代前半の頃を振り返ったら、思い当たる節があるはずです。ましてや今やインターネットがあるので、魅力的な誘いが簡単に手に入る。

67歳の「中核派」に見る埋没の怖さ

池上:しかもいったん感化された人は、その世界に閉じこもるとそのまま年を重ねていってしまう。1971年、警官が殉職した過激派による「渋谷暴動事件」の犯人として指名手配されていた「中核派」の大坂正明容疑者が、つい先日逮捕されました。年齢は67歳ですから私と同世代。暴力的な共産主義革命を打ち出していた「中核派」に当時共鳴して、そのまま歳を経たということになります。

 これは日本の例ですが、アフガニスタンとパキスタン周辺で生まれたイスラム主義の武装勢力「タリバン」も、若い人たちが教育されて生まれたものです。アフガニスタンの内戦からパキスタンへ逃れた難民の子供たちが、難民キャンプで過激な思想を知り、学び、母国へイスラムの兵士として送りこまれたところから始まっています。

増田:もちろん、難民が犯罪を犯すケースもあります。2016年7月、ドイツのバイエルン州の列車の中で、アフガニスタン出身の少年がナイフや斧を振り回し、数十人の乗客に無差別に攻撃を加え、死亡者が出る事件が起きました。このとき、少年がアフガニスタン出身だったこともあり、ただの無差別殺人ではなく「イスラム教徒によるテロ」と報じられました。