増田:彼らは、農業や倉庫の仕事など、イギリス人が好まなくなった肉体労働につき、成果をあげました。さきほど池上さんが指摘された日本で外国人雇用が増えているのと同じ分野ですね。その結果、「移民が我々の仕事を奪った」という声が大きくなったのです。
池上:アメリカでトランプ大統領が政権をかちとった背景にも、同じような構造がありますね。アメリカでは、メキシコからの不法移民がアメリカ人の仕事をたくさん奪った、だからメキシコからの不法移民を防ぐために「壁」をつくろう、とトランプは公約にかかげ、大統領になりました。
でも、逆に考えれば、メキシコからの不法移民に頼らなければ、なり手がいなかった仕事がアメリカにも多数あった、ということです。いまの日本と同じですね。
増田:そう、日本の現状は、イギリスやアメリカが辿ってきた道とさほど変わりません。

日本で移民を受け入れたくないと考える人の中には、テロを恐れる人もいます。
増田:たしかに、アルカイーダやイスラム国=ISの台頭により、アメリカやヨーロッパではテロが頻発しています。とりわけヨーロッパでは、イギリスでもフランスでもここ数年テロの話を聞かないときがない。移民を認めると、テロリストがたやすく国内に入ってきてしまうのではないか、と恐れるのも無理はありません。
ただ、多くの日本人が誤解している事実があります。ここのところフランスで起きているテロは、いまフランス国内に移ってきた移民や難民や旅行者が起こしたものではありません。かつての移民の二世、三世、つまりすでに「フランス人」となった人たちによる、ホームグロウン・テロであるケースが非常に多いのです。
なぜ、自国民にテロを行うのか
池上:現実には、フランス国民がフランス国に対してテロを行っていると。
増田:そうなんです。ちゃんとフランス国籍を持っていて、生まれも育ちもフランスで、フランス人として生きてきた人たちが、フランス人がフランスに対して起こしているテロなんです。難民や移民が起こしているテロではない。ではなぜ彼らがテロを起こすのかというと、もちろんそこには理由があります。
フランスの北部にダンケルクという港町があります。ここは典型的なブルーカラーの街であり、イギリスに渡りたくても渡れずに森の中で野宿をしている難民たちの問題を抱えています。ですから住民の多くは、大統領選の際に移民や難民の排斥を打ち出した国民戦線のマリーヌ・ルペンを支持しました。一方で、このダンケルクは、移民によって支えられてきた街でもあります。もともと鉄鋼業が栄えており、その現場を担ったのが、北アフリカなどからやってきた移民だったのです。
池上:かつての植民地などからやってきた移民の第一世代ですね。
増田:そうです。移民の第一世代は、過酷な現場で必死に働き、フランスで生きることを目標にしていました。その結果、彼らはフランス国民となり、子供たちは最初からフランス人として生まれ育ったわけです。
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