池上:どんなレポートのテーマを学生たちには出したのですか?

最相:1つ目が「生命を3つの言葉で定義して説明せよ」。2つ目が「私ならドローンをこう使う」。そして3つ目が先ほどお話しした「自分が専攻したい分野の科学者の伝記を書評せよ」。

池上:実に面白いテーマですね。学生たちが何を書いてきたのか、読んでみたいです。でも、200人の受講生のリポートを読むのは大変だったでしょう。

最相:それぞれのレポートについて、学生200人すべてにコメントを書いて戻しました。大変でしたが、最初のレポートからみんな真摯にレポートを書いているのがわかってそれがうれしかったですね。2回目のレポートのときは、丁寧な図解つきでドローンの利用法を解説してくれた学生もいました。

池上:レポートの内容については?

最相:特許がとれそうな優れたアイデアもありましたが、誰でも思いつきそうなものやすでにさんざん報道されているものを出してくる学生が少なくなかったですね。次の採点のときに、学生たちには「自分が考えることはたいてい、他人がすでに考えているんだよ」という話もしました。科学の場合、しょっちゅうあることですね、これは。

標準偏差の中心点を5点動かすのがフェア

池上:文章が書けない学生もいたでしょう。

最相:原稿用紙の使い方が分からない学生はいましたね。最初の1文字を下げるということを知らない。それから段落を区切ることを知らなかったり。授業では、改行するときには1文字下げるように、と事前に伝えました。

池上:私の場合、リポートは縦書きで書かせています。すると、400字詰めの原稿用紙を縦に2枚つなげて、20文字書いたら改行するのではなく、40文字書いてから改行する学生もいました。

最相:小学生のときに学んでいないのでしょうか。あ、でも、文系なら原稿用紙に文章を書けるかというとそうとも限らないかもしれませんね。ところで、学生たちから池上さんの講義は非常に厳しいと聞きました。最初の年は大教室に学生が入りきらないほどだったのに、次の年度からは激減したと。

池上:最初はひとつの講義で800人、別の講義で900人から履修の申し込みがありました。そんなに入れる教室がないので、抽選で260人に絞りました。ところが次からは、そもそも履修希望者が200人を切り、次は150人を切りという形で、今は2年、3年、4年生向けの講義で50人ぐらい。1年生向けで100人くらいです。

最相:学生は何を厳しいと感じたんでしょう。

池上:3割の学生に単位を出さなかっただけです。

最相:それは厳しい……。

池上:あくまで試験の結果なんです。講義自体は厳しくありませんが、採点が厳しいんですね。100点満点中60点なら合格で単位を与えるわけですが、その60点に達さない学生が続出しました。でも、最初の年は4割の学生がそのラインに届いていなかったんです。さすが4割落ちちゃうのはまずかろうと、ティーチングアシスタントの大学院生に「55点の人には5点下駄を履かせて救済しよう」と言いましたら、大学院生が「先生、それはフェアじゃありません」と。「55点の人だけに5点足すのではなく、標準偏差の中心点を5点動かすのがフェアです」

最相:さすが東工大生だ(笑)。

池上:大学院生がなにやらその場で計算して、方程式をつくり、点数ではなく標準偏差で計算しなおし、試験で落とす学生の数は4割から3割になったわけです。

最相:東工大で授業を持って、大学の先生の大変さを思い知りました。研究者として一生涯のテーマをどう選ぶのかだけではなく、まずは教育者として学生たちを日々教える仕事が待ち受けている。出席は何点、レポートは何点といった具合に成績の配点も考えたりシラバスを事前に作ったり、レポートを読み、コメントを書き、採点したり、と1コマの授業だけでへとへとになりました。

池上:そのあたりをわかっていただけて教育者のひとりとしてうれしいですね(笑)。今回、最相さんは、東工大生を前にした公開インタビューの相手をどんな基準で選んだのですか?

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