最相:一生涯追い続けるはずのテーマを捨てなければいけない――。つらいことです。以前、知人の若い研究者が自死したんです。背景には日本における「ポスドク問題」、すなわち、博士号を取得したあとの研究者の就職先が圧倒的に不足しているという社会問題がありました。
 なにも生涯のテーマを1つに絞らなくてもいい、いざとなったら別に方向転換してもいい、ともいえるわけです。研究者には多様な生き方があるし、ときには柔軟になってテーマを変えてもかまわないじゃないかと。たとえば、生涯を捧げるはずだったテーマを捨てて新たなテーマに活路を見出した研究者の実話があったら、孤独に陥りがちな研究者にとって支えになるかもしれない。東工大の学生さんの多くは将来研究者になるだろうから、そんな話も伝えたいなあと。

池上:東工大には思いつめそうな真面目な学生がたくさんいますからね。

最相:自分がかつて会ってきた理系の学生たちも「もっと気楽に考えたら」と肩をぽんと叩いてあげたくなるような子たちがけっこういました。

とりあえずぶらぶら歩いて探してみる

池上:実際に東工大で授業をやってみてどうでした? 世界有数の理工系の大学で学んでいながら自分のテーマを見つけられなかったり思い悩んでいたりする学生の多さに驚いたとお聞きしましたが。

最相:これだけたくさんの理系の学生さんと直接向き合い続けるのは初めてでしたので、漠然と(理系の学生は高校生くらいのときから自分の研究したいテーマを決めているのかな)と思っていたのです。ところが、必ずしもそうじゃなかった。ある日の講義が終わったとき、1年生か2年生の学生が教壇にやってきまして「僕、まだテーマが決まってないんです。これからどうしたらいいのか、よくわかりません」と。

池上:テーマが見つかっていない、というわけですね。最相さんは彼にどんなアドバイスを?

最相:実はそのときの私の講義では、「もし自分が目指す道が決まっているなら、その分野の研究者の評伝・自伝を選んで、それについて書いてください」という課題を出したんです。彼の悩みは「自分の方向がまだ決まっていないので、誰の本を選んだらいいのかわからないんです」ということだったんです。「じゃあ、興味がある人のことなら誰でもいいから、図書館の伝記コーナーでもとりあえずぶらぶら歩いて探してみたら」と言ったんですが。

池上:「誰でもいい」と言われるとよけい困るんじゃないかな、学生は(笑)。

最相:(笑)

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