
池上:東京工業大学の講義を『生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか』というお題にしたのはなぜですか?
最相:最初は直感的なものでした。私はライターですから専門家ではありません。その都度テーマを決めて取材をして本を書く。それがこの仕事の基本です。一方、科学者の方たちは、毎回テーマが変わる私のようなライターと異なり、自分の中心となる研究テーマを持っていらっしゃいます。まさに「一生を捧げるテーマ」です。じゃあ、そのテーマにはどうやって出会ったんだろうとお聞きすると、人それぞれ違うわけです。最初から自分の中でテーマが決まっていた人もいらっしゃるし、研究者生活を続けるうちにじわじわと「一生を捧げるテーマ」に近づいた人もいらっしゃるし、まったく別のことをやっていたらあるとき突然「一生を捧げるテーマ」に出会っちゃったという人もいらっしゃいました。
池上:テーマに出合う前のプロセスはいろいろあると。
時には、捨てなければいけないことも

最相:その点に関しては、さまざまなきっかけでテーマに出合うノンフィクションライターの仕事に近いところも案外ある。もちろん科学者の生き方は一度研究テーマを「これだ」と決めると一生そのテーマを貫くのが基本ですから、テーマが決まってからの生き方はむしろ逆なのですが。では「一生を捧げるテーマ」をどうやって科学者の方たちは選んだのか興味があったんです。
池上:東工大の学生たちがとても聞きたい話ですね。まさに「生涯の研究テーマを何にすればいいのか?」と悩んでいる人たちがたくさんいるはずです。
最相:私もそう思いました。「生涯を賭けるテーマ」を著名な科学者の方々はどう選んだのか? そこで、実際にこれまで私が取材した科学者や研究者の事例を紹介したり、実際に授業にお呼びしてインタビューしながら学生と一緒に聞くことにしました。
このテーマを講義に選んだ背景には、研究者の生きづらさを、さまざまな取材を通じて知っていたこともありました。多くの研究者は生涯を賭けて1つのテーマを追いますが、時としてそのテーマを諦めないといけないことがあります。たとえば、自分の師に当たる人との関係が変わることで、それまで没頭していたテーマを追い続けられなくなったり。
池上:恩師とぶつかって、研究できなくなるケース、けっこうありそうです。
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