ノンフィクションライター最相葉月さんの新刊『東工大講義 生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか』(ポプラ社)は、これまでさまざまな研究者に取材を重ねてきた最相さんが、東京工業大学の学生たちに、「科学者は一生涯を賭けて研究するテーマをどうやって選んできたのか?」を講義したものをまとめた本です。
 最相さんに東工大での集中講義をお願いしたのは、この3月まで東京工業大学教授を務めてきた私(池上)です。東工大の学生たちの多くは研究者になります。彼ら彼女らにとって、何を自分の研究テーマと定めるかはまさに人生の一大事。最相さんに「科学者は生涯を賭けるテーマをどうやって選んでいるのか?」という話を聞いた「東工大生の反応」についてうかがいます。

池上:東京工業大学の講義を『生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか』というお題にしたのはなぜですか?

最相:最初は直感的なものでした。私はライターですから専門家ではありません。その都度テーマを決めて取材をして本を書く。それがこの仕事の基本です。一方、科学者の方たちは、毎回テーマが変わる私のようなライターと異なり、自分の中心となる研究テーマを持っていらっしゃいます。まさに「一生を捧げるテーマ」です。じゃあ、そのテーマにはどうやって出会ったんだろうとお聞きすると、人それぞれ違うわけです。最初から自分の中でテーマが決まっていた人もいらっしゃるし、研究者生活を続けるうちにじわじわと「一生を捧げるテーマ」に近づいた人もいらっしゃるし、まったく別のことをやっていたらあるとき突然「一生を捧げるテーマ」に出会っちゃったという人もいらっしゃいました。

池上:テーマに出合う前のプロセスはいろいろあると。

時には、捨てなければいけないことも

<b>最相葉月(さいしょう・はづき)</b>/1963年生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学法学部卒。著書に『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4101482233/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4101482233&linkCode=as2&tag=n094f-22">絶対音感</a>』(小学館ノンフィクション大賞)、『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4101482217/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4101482217&linkCode=as2&tag=n094f-22">青いバラ</a>』『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/410148225X/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=410148225X&linkCode=as2&tag=n094f-22">星新一 一〇〇一話をつくった人</a>』(講談社ノンフィクション賞、大佛次郎賞、日本推理作家協会賞、日本SF大賞、星雲賞)、『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4101482241/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4101482241&linkCode=as2&tag=n094f-22">東京大学応援部物語</a>』『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4591127532/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4591127532&linkCode=as2&tag=n094f-22">ビヨンド・エジソン 12人の博士が見つめる未来</a>』『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4104598038/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4104598038&linkCode=as2&tag=n094f-22">セラピスト</a>』『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/400028729X/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=400028729X&linkCode=as2&tag=n094f-22">れるられる</a>』『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4004315395/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4004315395&linkCode=as2&tag=n094f-22">ナグネ 中国朝鮮族の友と日本</a>』『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4903908712/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4903908712&linkCode=as2&tag=n094f-22">辛口サイショーの人生案内</a>』など。児童書に『<a  href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/406287007X/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=406287007X&linkCode=as2&tag=n094f-22">調べてみよう、書いてみよう</a>』。 (写真:大槻純一、以下同)
最相葉月(さいしょう・はづき)/1963年生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学法学部卒。著書に『絶対音感』(小学館ノンフィクション大賞)、『青いバラ』『星新一 一〇〇一話をつくった人』(講談社ノンフィクション賞、大佛次郎賞、日本推理作家協会賞、日本SF大賞、星雲賞)、『東京大学応援部物語』『ビヨンド・エジソン 12人の博士が見つめる未来』『セラピスト』『れるられる』『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』『辛口サイショーの人生案内』など。児童書に『調べてみよう、書いてみよう』。 (写真:大槻純一、以下同)

最相:その点に関しては、さまざまなきっかけでテーマに出合うノンフィクションライターの仕事に近いところも案外ある。もちろん科学者の生き方は一度研究テーマを「これだ」と決めると一生そのテーマを貫くのが基本ですから、テーマが決まってからの生き方はむしろ逆なのですが。では「一生を捧げるテーマ」をどうやって科学者の方たちは選んだのか興味があったんです。

池上:東工大の学生たちがとても聞きたい話ですね。まさに「生涯の研究テーマを何にすればいいのか?」と悩んでいる人たちがたくさんいるはずです。

最相:私もそう思いました。「生涯を賭けるテーマ」を著名な科学者の方々はどう選んだのか? そこで、実際にこれまで私が取材した科学者や研究者の事例を紹介したり、実際に授業にお呼びしてインタビューしながら学生と一緒に聞くことにしました。
 このテーマを講義に選んだ背景には、研究者の生きづらさを、さまざまな取材を通じて知っていたこともありました。多くの研究者は生涯を賭けて1つのテーマを追いますが、時としてそのテーマを諦めないといけないことがあります。たとえば、自分の師に当たる人との関係が変わることで、それまで没頭していたテーマを追い続けられなくなったり。

池上:恩師とぶつかって、研究できなくなるケース、けっこうありそうです。

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