憲法学では「7条を根拠にした解散も可能」

 憲法学では7条を根拠にした解散も可能としている。

《「天皇が国政に関する権能」という性質を持たないのは、助言・承認権によって内閣が実質的決定権を有するからである。ゆえに、解散権についても、それが天皇の国事行為とされていることから、内閣が実質的決定権を有すると解される》(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利著『憲法Ⅱ』)

 もっとも「7条解散説」が一点の曇りもなく論理的に明快かというとそうでもなく、日本憲法学の権威である故・芦部信喜東京大学名誉教授は著書の『憲法』の中で、

《この問題は、そもそも憲法の条文の不備に由来するもので、どの見解(注・解散を根拠づける論理)が正当であるかを決めることは難しい》

と指摘し、樋口陽一東京大学・東北大学名誉教授も結論は常識的に妥当としながらも、その論理的問題点を指摘している。

 7条解散が政治的慣行として確立しているのは、衆議院の解散がリアルタイムに民意を反映する効果があると考えられたからである。議会が常に解散の脅威にさらされている方が、議員たちに常に民意を意識した行動を取らせることが可能になるのではないか、との考え方だ。

 たしかに日本では、野党が重大な案件について、内閣に解散をして民意を問え、と要求することも多い。だがヨーロッパでは自由な解散には批判が寄せられ、議院内閣制のモデルであるイギリスも2011年に解散権を制限する法律を制定した。

 では内閣総理大臣が解散権を憲法69条に限らずに行使できるとして、その限界はないのだろうか。裁判例では1986年の衆参同日選挙について、国政上、国民に改めて信を問うべき場合に当たらないので憲法15条1項・3項、42条、47条等に違反すると裁判が起こされたケースがある。だが名古屋高裁は翌年、衆議院の解散は「統治行為」に当たると最高裁判例を踏襲し、選挙に関する事項は法律事項(憲法47条)であり、選挙の基本理念を侵害しない以上、公選法に同日選禁止規定を設けるか否かは立法政策の問題だとするなどして、訴えを退けた。

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