憲法改正の振る舞いを他国のやり方に学ぶ「憲法改正の流儀」、ドイツ編フランス編に続いて今回はアメリカを取り上げる。アメリカは憲法改正のハードルが高く、憲法秩序の変動は判例によって行われている。憲法の条文が抽象的かつ少ないので、明文で禁止されていること以外は裁判所の法解釈によってどんどん補充していくのだ。日本国憲法も強い影響を受けた合衆国憲法はいかなる改正を経てきたのか。一橋大学大学院法学研究科教授の阪口正二郎氏に聞いた。

「老舗の温泉旅館」のような合衆国憲法

阪口正二郎(さかぐち・しょうじろう)氏。一橋大学大学院法学研究科教授。専攻は憲法、主な研究テーマは立憲主義、表現の自由など。主な著書に「立憲主義と民主主義」(日本評論社)などがある。

 合衆国憲法は1788年に成立した世界最古の成文憲法と呼ばれる(ただし異説あり。後掲阿川氏著作)。230年近い歴史のなかで、憲法改正を求める提案は1万2000件を超えるといわれており、そのうち発議に至ったのが33カ条、改正にまで至ったのが27カ条である。

 条文数はわずか34だが、予備知識を持たずに読んでいくと混乱する。第1条第1節に「立法権、二院制」を定めてあるのだが、それからしばらくいくと、今度は修正第1条なるものが現れて、政教分離や表現の自由など人権を規定した条項が現れる。第1条の連邦議会の権限や構成を定めた条文を修正したのが、なぜ人権の話になっているのか?? 第1条と修正第1条の関係がわからない。

 私の素朴な疑問に阪口教授が笑った。

「わかりにくいでしょう。合衆国憲法は世界的にも珍しい形式を取っていて、成立時のオリジナルの条文が第1条から第7条までで、そのあと改正で条文を加えるごとに『修正第○○条』と書き加えるんです。オリジナルが7条、改正したのが27条、それで合計34条となるんです」

 つまり「修正第1条」とは「1条を修正」した条文ではなく、「1回目の改正で加えた条文」のような意味なのである。

 さらにわかりにくいのが、「修正の修正」があったりすることだ。たとえば1919年に成立した修正第18条は「酒精飲料の製造等の禁止」を定めている。禁酒法時代の憲法の条文だ。それが1933年に成立した修正第21条第1節に《合衆国憲法修正第18条は、これを廃止する》と書いてある。

「普通だったら廃止したり書き換えたら、条文を削ったり文言を上書きするでしょう? 合衆国憲法はそのまま残すんです」

――なんでそんなややこしいことをするんでしょうか。

「わかりません(笑)」

 合衆国憲法は老舗の温泉旅館のようである。本館(旧館)のあと新館やら別館を建て増しして渡り廊下でつないである。渡り廊下を進んでいっても、使われていない部屋がある。