フランスの改憲に見る国民投票の怖さ

 ここまでのフランスの憲法改正史で、日本国憲法の改正で参考にすべきものはなにか。それは国民投票(レファレンダム)である。ド・ゴールは第五共和制憲法の成立も、アルジェリア独立も、大統領公選制も、ことあるごとにレファレンダムを実施して、国民の賛成多数をもって「正当性あり」として強引に政治指導を行ってきた。

「国民投票は怖いもので、投票で認められたものは無効とはいえない。フランスの憲法院ですら判断を回避しているぐらいです。この危うさは日本でも同じだと思います」

「憲法改正の限界が理論的にあるとしても、これが国民投票で成立したら、無効とはいえないと思いますよ。理論的な限界を超えた改憲が成立したら、それは新しい憲法の制定として捉えざるを得ないんじゃないか。フランスでは統治機構分野の改正でしたが、とりわけ人権分野に及ぶ改正においては、民主制プロセスで対立している争点について、一時的な多数を頼んで改正するようなことをしてはいけません」

 憲法改正の草案は、国会での3分の2の多数決が得られたら、すぐ国民投票にかければいいという単純なものではない。その過程で「熟議」が求められる。それは日本国憲法96条の要請だと、曽我部教授は指摘する。

《第九十六条①この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。②憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する》

「1項にある『発議』とは、国会がいろいろ検討した上で、国民に対してご提案するという意味です。最終的に国民が決めるんだからといって、拙速に国会審議を通して国民に判断を丸投げしていいわけではありません」

 とくに人権分野の改正は慎重でなければならない。

「自民党改憲草案では、天賦人権説が否定されています。しかしこれは歴史的・世界史的に人類がたどり着いた普遍的原理です。改正の議論はこのような普遍的原理を踏まえてしないと、大変なことになる」

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