昨年、安保法案に多くの憲法学者が「違憲」の声を上げた。だが極めて少数だが、「合憲」と発言した者もいる。そのあと彼の身に何が起きたか。その主張についてじっくり聞いて見た。憲法学者の姿、2回目は九州の新進気鋭の学者を紹介する。

安保法案を機に浴びたバッシング

井上武史(いのうえ・たけし)
1977年生まれ。京都大学法学部卒。指導教員は大石眞教授。岡山大学准教授、パリ第1大学客員研究員を経て、2014年10月より九州大学大学院法学研究院准教授。「結社の自由の法理」(信山社)で田上穰治賞受賞。趣味はマンドリン音楽、九州の温泉めぐり。

 ツイッターに名指しで「殺してやる」と書かれた。警察に被害届けを出した。

 大学に「あんな奴を雇っていていいのか」と電話も掛かってきた。事務局は無視してくれた。

 同業者にフェイスブックで「化け物」と書かれ、テレビ番組で「ネッシーを信じている人」と揶揄された。

 「ふだん少数者の人権を守れって言っている人が、矛盾していないんですかねえ」と、九州大学法学部准教授の井上武史は苦笑する。

 井上がバッシングを浴びるようになったのは、昨年、安保法案についてのメディアからのアンケートで、「集団的自衛権は合憲」という論陣を張ったからである。最初に東京キー局からのアンケートに「合憲」と答えたら、中間報告で違憲論者が約50人、合憲論者は井上ただひとりだった。

 「番組で私の見解が紹介されたとたん、ツイッターで『変な奴が出てきた』とか一斉に書かれましたね」

 そのあと朝日新聞社のアンケートにも回答したら、安保法案が「憲法違反だ」「違反の可能性がある」と答えた学者が115人いたのに対し、「違反には当たらない」と答えたのは井上を含めて2人だけだった。その井上の詳しい論立ては同社のホームページで確認していただくとして、その骨子をまとめるとこうなる。

(1)一般論として政府が憲法解釈を変更することに憲法上の問題は無く、政治的責任を負うだけである。

(2)集団的自衛権は国際法上、国に認められた権利であり、日本国憲法はそれについて禁止も肯定もしていない。

(3)学説の価値は多数決や学者の権威で決まるものではない。