意思決定の改革、という指摘は興味深いですね。民間企業では終身雇用・年功序列のカルチャーが崩れつつありますが、自治体ではまだ根強く残っているのかもしれません。

藤井:組織も縦割りで、ノウハウが組織で共有されてなかったり、同じような業務を複数の課でしていたり。もっと具体的にいえば、「ここの省庁の窓口は○○課」と明確に窓口を分けているので、補助金の情報などがその課で止まって、他の課に伝わらないということもあります。ですから、組織の情報の流れをちょっと変えるだけでも、パフォーマンスが大きく変わる。

やめるべき事業はやめるが、住民の生活は守る

 役所で新しいことを始めようとするとき、「予算がない」という言い方で二の足を踏んでしまうことも多いと思いますが、省庁が持っている補助金を賢く使ったり、官民連携でゼロ予算でしたりという工夫はいくらでもできる。そうした動きを促すには、やはり組織の風通しが良くないと難しいと思います。

藤井延之・湯沢市副市長(秋田県)

伊藤:寒河江市を含む一般的な自治体は、各年代の職員数が均等でなく、偏っています。特に若い働き手であり、組織イノベーションのキープレーヤーである30代は、全国の自治体が採用を絞った時期に入庁したために層が薄くなっています。そして人数が少ないなどいろいろな理由で、その世代を境目に上の世代と下の世代の間で役所内の情報が円滑に伝わらないという構造になっているとの印象を受けました。

 そこで私は、層の薄さを埋めるために採用された30代の社会人経験者を核として、ベテランなどの上の世代と若い世代の間で、情報が偏らないように工夫しました。そうすると、若い職員が「こういうことをやりませんか」と面白い提案をしてくれるなど、目に見えた変化がありました。

伊藤耕平・寒河江市さがえ未来創成課長(山形県)

早川:私は市長に進言して、アイデアを持ち、行動的でやる気のある職員に、活躍できるポストを与えていただきました。やる気のある職員が実務の権限を持たなければ何も動かないですから。

横山:改革ということで言えば、ゴールの設定の仕方もそうです。役所ではプロジェクトの評価をする時、予算執行率で判断することがあります。1000万円の予算を990万円使ったら、それでよしとする。本来なら、そのプロジェクトを始めた目的の達成がゴールであり、それをどの程度実現できたかで評価しなければならない。役所の職員は、少ない人数で多くの仕事をこなさなくてはいけないので大変だけれど、もっと中長期のゴールを設定したほうがいい。

小濱:首長の多くは自分の宣言したことがちゃんとできているか、自己チェックしていると思うんです。ただ、課長クラスでもそれができているかというと、ちょっと疑問ですが。

藤井:事業の改廃もなかなか難しいですよね。成果が上がっていないならやめればいいのに、そう進めようとするとかなり抵抗を受けます。でも、やめるべき事業はやめないと、新しいことができないのは自明の理です。言われたことは続けるという意識を捨て、自分の頭で検証、決断をしていかなければならない。

小濱:何かをやめることのエネルギーは、何かを始めることの100倍はエネルギーが必要。民間企業でもいったん走らせた事業をやめることは大変ですが、役所のそれは民間の比ではありません。

早川:そこに切り込めるのが、私たち外部の人間なんでしょう。事業を切ってしまえば、「勝手なことをして」と役所内で悪者扱いされるかもしれませんが、こういうやり方があるのだと知っておくことは、必ず組織のためになります。

伊藤:地方創生は地域の成長戦略の推進という側面もあるため、「選択と集中」という話になりがちです。するとどうしても、日が当たる産業と日が当たらない産業が出てきますが、スパッと支援をやめるようなことを行政はしません。円滑に「選択と集中」を進めるためにも、ある支援事業をやめることはあっても、他の手立てでケアをするなどして対応します。そのためにも行政と住民が近づいて、より良い手はないかと、もっと議論していかないといけません。

(後編に続く、本記事は『未来につなげる地方創生 23の小さな自治体の戦略づくりから学ぶ』を再編集しました)

日経BP社では『未来につなげる地方創生 23の小さな自治体の戦略づくりから学ぶ』を発行しました。本書は内閣府地方創生人材支援制度の第一期派遣者たちによる、地方創生のリアルな現場の克明な記録です。派遣者たちは地方で何を見て、どう感じ、どんなことに取り組んだのか。「地方創生」の歴史はここから始まります。くわしくはこちらをご覧ください。