夕焼けに見とれて列車の発車時刻を忘れそうになる

 多くの人が憧れるエルミタージュ美術館を、我々は不遜にも2時間半で出てきてしまった。決して内容に不満だったわけではなく、とてつもない豪華さと、あまりの人の多さに頭がくらくらしてきたからだ。もう満腹という感じだった。

 あとは、軽く食事をしたあとで、行きがけに目を付けていた運河めぐりの船に乗ることに決定。所要1時間、料金は500ルーブルとのことである。しばらくは数人しか客が集まらず、「これじゃ、燃料費も出ないんじゃないか」と人ごとながら心配したが、雨がやんだためか、出航直前には客も増えて安心した。航行中、休みなく続くロシア語の解説は意味がまったく分からなかったが、それはそれで楽しい体験である。

運河めぐりに出発。乗客は備えつけの毛布をまとっている
運河めぐりに出発。乗客は備えつけの毛布をまとっている

 船を降りたころには、すっかり日は傾いていたが、ようやく青空が見えてきた。それどころか、時を追うにしたがって、それまでの悪天候をすべて帳消しにして、お釣りがくるような光景が広がっていったのである。

 「60年近く生きてきたけど、こんな夕焼けを見た記憶はないぞ!」

こんな色に町が染まった。色を補正していないことは、右下に見える看板のバックが白いままであることからも分かるだろう。奥の建物は、血の上の救世主教会
こんな色に町が染まった。色を補正していないことは、右下に見える看板のバックが白いままであることからも分かるだろう。奥の建物は、血の上の救世主教会

 思わず叫ぶほどの空の色だった。町全体が真っ赤に彩られたかと思うと、それが徐々に赤紫から紫色に変化していく。たぶん、この町の人にとっても珍しいのだろう。立ち止まってスマートフォンで写真を撮る人や、振り返ってしばらく眺めている人も続出する。

 「ロシア旅行の最後を飾るにふさわしい光景だ!」

西の空も刻一刻と色が変わっていった
西の空も刻一刻と色が変わっていった

 気取ってそんなことを言いながら写真を撮っていたら、いつのまにか帰りの列車の時間が迫っていることに気がついた。だんだん早足になって、最後は二人でサンクトペテルブルクの中心街を走った。

 こうして、朝のモスクワ・レニングラード駅に続いて、帰りのサンクトペテルブルク・モスクワ駅でも、きわどいタイミングでの乗車。乗り遅れたら、次は夜行列車になるところだった。

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