
さて、2015年9月25日、金曜日の朝。時間の余裕を持って駅に向かったつもりが、不覚にも間違えて隣のヤロスラブリ駅に入り込んでしまい、レニングラード駅に着いたのは発車の10分ほど前。
「やれやれ、なんとか間に合ったか」
そう安堵したのも束の間、駅の入口で荷物のX線チェックがあった。前の人をせかして怒濤の勢いで通り抜け、急ぎ足で広いコンコースを抜けて、やっとホームの目前に来たところで、またもや荷物チェック。
ホームで一番手前の車両の車掌さんに切符を見せると、「ここから乗って! 車両の中を歩いていって」と言われたようなので、それに従うことにした。車両の間にドアがあって何よりであった。

「ああ、シベリア鉄道はよかったなあ」
海外の列車では当たり前のことなのだが、このサプサンも座席の向きが固定されていて変えられない。いわゆる集団見合い式のクロスシートが基本になっており、1両のうち進行方向前半分が後ろ向き、後ろ半分が前向きだ。そのほか、一部に4人用の席が設けられていた。
これは昔から言われていることだが、欧米人は後ろ向きの座席で長時間乗っていても苦にならないようだ。その点、日本人は進行方向に向いた座席じゃないと気持ちが悪く、日本の特急に乗っていると、方向転換があるたびに座席の向きを変えないと周囲の人に怒られたりする。
まあ、偉そうに言っている私も同じなので、座席を予約する段階で「もし可能ならば、進行方向に向いた座席で」と、辞書を引き引き書き込んでおいた。それが功を奏したのか、行きも帰りも進行方向を向いた席だった。

乗客は、ロシア人のビジネスパーソンらしきスーツ姿の人たちと、いかにも観光客という人たちが交じっていて、まさに朝の東京を発車する東海道新幹線「ひかり」の雰囲気である。そう、静岡や浜松に出張するときは、ジャパン・レール・パスで「のぞみ」に乗れない外国人や、ジパング倶楽部では「のぞみ」の特急券割引がきかない高齢者の方々と席を争って、1時間に1本にしかない「ひかり」に乗り込まなくてはならないのだ。
さて、食事は「おいしい機内食」という感じで悪くはないのだが、シベリア鉄道の食堂車で食べたビジネスランチ(昼の定食)には、遠く及ばない。そして車窓はというと、やはりシベリア鉄道にくらべると、失礼ながらおもしろみがない。
「ああ、シベリア鉄道はよかったなあ」
ビジネスクラスの革張りのシートに座りながら、わずか数日前まで寝台でごろごろしながら車窓を眺めていた生活を懐かしがっていた、わがままな私である。
周囲のロシア人につられて思わずお土産を購入
そして、この列車でも乗車記念のお土産を売っており、手元の冊子には私がシベリア鉄道で買ったアヴァンギャルドなマグカップや、買いそびれたぬいぐるみも載っているではないか。
おもしろかったのは、いかにも「出張です」というスーツ姿の人たちが、こぞってお土産を買っていたことである。近くの席の人は、蒸気機関車をかたどったUSBメモリーを買ったので、私もつられて大枚2000ルーブルをはたいて購入してしまった。

容量は8GB。合成ゴム製のような弾力のある手触りはいいのだが、飾りが細かいのが不安だった。事実、日本に帰ってからUSB端子のカバーを付けたり外したりしているうちに車輪の1つがはがれてしまったので、これもまた以前のマグカップと同様、仕事場の置物と化している。

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