鼻を利かせて路面電車を見つけた30年前

 資料によれば、モスクワには全長181km、約50系統の路面電車網があり、路線延長は世界で第4位だそうだ。ただ、路面電車は町の中心から少し外れたところを走っている。中心部に集中している観光地は、地下鉄の利用が便利なので、観光客が路面電車を利用する機会はほとんどないだろう。

 そんな路面電車を比較的中心部に近いところで見られるのが、地下鉄1号線のチストゥエ・プルドゥ駅前を起点にして南に下り、モスクワ川を渡ってピャトニツカヤ通りの近くを経由して郊外に向かう3、39、A系統である。

夕陽を真正面に浴びながら、ノヴォクズネツカヤ駅前に到着した39系統の電車。チェコのタトラ社製の年季の入った車両だ
夕陽を真正面に浴びながら、ノヴォクズネツカヤ駅前に到着した39系統の電車。チェコのタトラ社製の年季の入った車両だ

 30年前に、なぜここにたどり着いたのかは覚えていないが、ふらふら歩いているうちに鼻が利いたのだろう。何かに導かれるように路面電車の停留所に行き当たったのだ。下の写真でも分かるように、周囲はまるで林のように木が茂っていて、「ずいぶん町外れに来ちゃったな」と心細くなったのだけは覚えている。

30年前の地下鉄ノヴォクズネツカヤ駅前に到着した39系統の電車。このときは、タトラ社製の車両ばかりだった(1985年)
30年前の地下鉄ノヴォクズネツカヤ駅前に到着した39系統の電車。このときは、タトラ社製の車両ばかりだった(1985年)
昔の写真に写っている少女たちは、ちょうどこの左の女性くらいの年齢になっているはず
昔の写真に写っている少女たちは、ちょうどこの左の女性くらいの年齢になっているはず

 モスクワの路面電車にも、一部には複数車体の低床車が導入されているようだが、この路線では昔ながらのタイプの車両ばかりが走っていた。車体の角張ったやや新しいタイプは、イルクーツクで見た車両と同じだ。

この車両は、ロシアのUKVZ社製のようだ
この車両は、ロシアのUKVZ社製のようだ

アルバート通りにはちょっとがっかり…

 赤の広場周辺をぶらぶらして、クレムリンを見学して、30年前の撮影場所を探してうろうろしているうちに、あっという間に日が傾いてしまった。すると、ピャトニツカヤ通り周辺の脇道は、勤め帰りの人やテラスで食事をする人でごった返す。地元の人にはごく日常的なことなのだろうが、そんな風景がおもしろくて、しばらくイスに座って眺めていた私たちである。

ピャトニツカヤ通りの脇道を入り、トレチャコフ美術館に近い地下鉄トレチャコフスカヤ駅あたり
ピャトニツカヤ通りの脇道を入り、トレチャコフ美術館に近い地下鉄トレチャコフスカヤ駅あたり

 モスクワの庶民的な通りというと、ガイドブックに必ず登場するのが中心部から西側にあるアルバート通りである。ソ連時代にも、そこだけは自由な雰囲気に満ちていたという話を聞いていたので、最終日に訪ねてみたのだが、正直言ってがっかりした。あまりに観光地化して俗化していたからだ。

 アルバート通りの近くには韓国資本のロッテホテルがあるためか、韓国人のツアー客が観光バスで乗り付けていたが、はたして楽しめたのかどうか。

 その点、ピャトニツカヤ通りは、赤の広場から歩いていける場所にありながら、観光客は見かけなかった。それでいて、たまたまかもしれないが、入ったカフェのウエイターは英語を話せたし、私の好きなベルギービールも飲めた。

 「次にモスクワに来るときは、この通りの近くにホテルを探して、夜が更けるまで飲み食いしたい」

 そう誓った私たちである。

 さて、この翌日は無謀にもサンクトペテルブルクに日帰りで往復することになる。モスクワの地下鉄の話や、キリル語の看板の楽しみ方を含めて、あと2回ほど連載にお付き合い願いたい。

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