チュメニ駅で警察に油を絞られそうになる

 事件は、翌日の早朝に起きた。モスクワ時間で6時42分、現地時間で8時42分に到着したのはチュメニ駅。ロシア最大の油田があることで知られる町である。ここで20分間停車するので、例によって私たちはホームに降りて写真を撮りまくっていた。

 私は、駅舎とホームをぶらぶらして戻るつもりだったのだが、妻が長いホームの端まで歩いていって写真を撮っている。

近代的なチュメニ駅

 「しかたがないなあ」と思ってそのあとを追い、私も駅構内の全体を見渡せる場所までやってきた。そこで写真を1枚撮ったのだが、嫌なことに気がついた。写真を撮った先には、軍用トラックを積んだ貨物列車が停車していたのである。

 「こりゃ、まずい。ソ連時代ならば警察がすっ飛んでくるところだ」

 そう思った直後のことである。駅舎がある隣のホームから40代くらいの小柄な男性が、私のほうに向かってきた。

これは妻が撮った軍用トラック満載の写真。私が撮った写真には1台しか写っていない(撮影:二村嘉美)

 彼は、「ポリツィア」と言って、警察手帳らしきものを開いて見せてくれる。私服警官だった。

 「こりゃ、本当に困ったぞ! でも、ロシア語で説教されても意味がわからないしなあ……」

 妻はいつのまにか姿を消していた。私は、彼の表情が穏やかなのを見てとって、このまま逃げることに決めた。右手を顔の高さまで上げて、軽く頭を下げつつ、「わかった、ごめん、ごめん。戻るから」と心の中でつぶやき、にっこりと微笑みながら、そそくさとその場所を離れたのである。

 幸いにも、彼は追いかけてはこなかった。

チュメニ駅の駅舎側のホーム。このホームのどこかに私服警官がいたようだ

 確かに、モスクワに近づくにつれて、駅の警備が厳しくなっているのは感じていた。実際にモスクワでは何度かテロがあったのだから、それはしかたがない。

 だが、旧ソ連時代の経験を生かして、あまり無理をせずに写真を撮っていたつもりだったので、今回は羽目を外しすぎたかと自己嫌悪に陥ってしまった。

 「どうしたの、落ち込んじゃって。結局、何事もなかったからいいじゃない」

 私は、「もとはと言えば、あんなホームの端まで行くからいけないんだ!」ということばを飲み込んで、一人車窓をぼんやりと眺めるのであった。

チュメニ駅で停車中の列車