車窓に向けてロシア人のカメラの放列が

 日もすっかり傾き、列車がバイカル湖畔を離れて山中に分け入ったところで、私たちは食堂車をあとにした。

「それにしても、ロシア人たちは何をしているんだろうね。彼らにとっては、バイカル湖の景色なんか珍しくもなんともないのかな?」

 そんなことを話しながら、もとの車両に戻ってきたところで驚いた。ずっとコンパートメントに籠もっていたロシア人乗客が、我も我もと通路に出てデジカメで車窓を撮影しているではないか。

ロシア人乗客が通路に出て外を眺めていた

 「はて? 何があるんだろう。もうバイカル湖は通り過ぎたはずなのに……」

 窓の外を見てまた驚いた。列車はいつのまにか高度をかせいでおり、山の中腹からバイカル湖を見下ろす絶景のポイントを走っていたのである。

危ういところで、湖を見下ろす絶景ポイントを見逃すところだった

 さらにさらに驚いたのは、デジカメ軍団のなかに、あの同室の「若者」が加わっているではないか!

 彼が外界に積極的に興味を示すのを見たのははじめてだった。そもそも、彼がコンパートメントを出るのは、カップ麺に湯を注ぎに行くか、トイレに行くか、停車中にタバコを吸いに行くときだけ。ましてや、デジカメを持っているなんて想像もしなかった。

 これが、207列車で体験した最後の驚きだった。

針葉樹林の向こうにバイカル湖が広がる

「あと2日は乗れる」と言った舌の根も乾かぬうちに……

 イルクーツク到着は、現地時間で9月18日、定刻の午後6時35分。まだまだ空は明るかった。

イルクーツクに向けて山中を最後の力走をする207列車

 これで、今回最長の60時間半の旅は終わりだが、何とも名残惜しい。同室の「兄貴」と「若者」と固く握手して、コンパートメントをあとにした。

 通路では、近所のコンパートメントの人たちにもあいさつして、列車を降りてから車掌さんはもちろん、食堂車のお姉さんたちにも別れを告げた。