食堂車でバイカル湖を眺める贅沢

 食堂車のカウンターに座って車窓を眺めていると、昼の12時半を過ぎたころに、ついにバイカル湖が視界に入ってきた。

 バイカル湖の面積は約3万2000平方キロメートルというから、琵琶湖の50倍近く。ほぼ九州の大きさに匹敵する。

 シベリア鉄道は、その南岸をかすめて通過していくだけだが、それでも4時間にわたって車窓から見えているのだ。

バイカル湖は広いといっても縦に長いので、対岸がはっきりと見える

 こんな絶景なのだから、もっと食堂車で楽しんでいる人もいるだろうと思っていたら、ほかに客はほぼゼロ。食堂車の電源コンセント目当てにノートパソコンを持ってきた男性が一人いただけである。

 私にとっては、仕事のことも忘れ、どこまでも広がるバイカル湖を目の前にして、ビールを飲むひとときは贅沢で至福の時間であった。

いくら絶景といっても、4時間も見続けているとさすがの私も飽きてきた

 実は、ウラジオストクからモスクワに直通する人気列車のロシア号では、バイカル湖岸通過は夜半から未明になってしまうので車窓を楽しむのは難しい。

 34年前、1回目の旅で乗ったロシア号は、今とは運行時刻が違うものの、やはりバイカル湖通過は真夜中であった。

34年前のロシア号(1981年)

 しかも、当時は夜になると車掌のおばちゃんが各コンパートメントにやってきて、「ブラインドを下ろせ」と指示していく。「灯火管制じゃあるまいし」と思ったのだが、なにしろソ連時代のことだから、素直に従うしかなかった。まあ、夜のシベリア鉄道沿線では、ブラインドを上げていても、ほとんど真っ暗で意味がないのだが。

 それでも、バイカル湖だけは見たかった。4人部屋には私のほかにオーストリア人の男がいるだけだったので、バイカル湖通過の時刻を見計らって、2人でこっそりとブラインドを10センチほどあげ、その隙間からしばらく外を覗いていた。

 月明かりのおかげで、湖面がくっきりと見えていた。

 毎日、下手くそな英語でコミュニケーションをとっていた私たちは、思わず「ビューティフル」と同時に声を出したことを覚えている。